その他情報発信

シリーズ「社会の未来を考える」

○2010年は下村治博士の誕生100年であった。

○下村博士は、1910年(明治43年)佐賀県生まれ。東京帝国大学卒業後の1934年(昭和9年)に大蔵省入省、経済安定本部物価政策課長、日本銀行政策委員などを歴任。退官後は日本開発銀行理事・同行設備投資研究所長、日本経済研究所会長等を務めた。1960年代前半の池田内閣における国民所得倍増計画立案の際に中心的役割を果たした後、第一次石油ショック以降は「ゼロ成長」「持続可能な発展」を提言した。また、米国の債務国化が世界経済に及ぼす危険性について、いちはやく警告を発した。1989年(平成元年)逝去。
近年になって研究や評伝が多数出版されている他、主著である『日本経済成長論』や『日本は悪くない 悪いのはアメリカだ』 が再刊されるなど、先行きが不透明な今日の経済状況において、下村博士の主張に再び注目が集まっている。

○下村博士の研究活動を振り返ったときに特徴的なことは、理論面での支柱をなす著作「経済変動の乗数分析」がある一方で、その大部分は時々の政策課題に関して経済誌上に発表した多数の論文であり、またそれらの論文は自らの主張への否定的な意見の論者との厳しい論争でもあった。

○今日の我が国経済は、失われた20年とも称される長期停滞が続き、外には米国発の金融危機を契機とする世界経済の構造変化、内には高齢化、経済格差の拡大と固定化、財政赤字の発散懸念など、引き続き困難な状況にある。さらに、今般の東日本大震災は、かかる状況を一層厳しくするであろう。

○今日の経済誌においても、かかる経済状況を危機として捉え、解説と解決の方法を訴える記事が毎週・毎月掲載されている。惜しむらくは、これらの記事は、現代の多忙なビジネスパーソンを対象とするためか、短時間で読める「読みやすさ」を重視しているように思える。そこには、理論的な根拠、データの分析が十分に示されていない例も少なくなく、読者が「自分できちんと考える」ことを却って困難にしているように感じられる。

○また、アカデミックの世界においても、多くの研究者がこの状況に危機感を抱き、さまざまな意欲的研究が行われている。ただし、学究的な先進性を競うこれらの研究は、一般市民はもちろん社会科学に一定の理解と関心を有する者にもけして理解しやすいものではない。

○この特別研究シリーズにおいて、我々はかつて下村治博士を会長として頂いた研究所として、以下の目線で社会科学の各分野における研究者に情報発信を求めていきたいと考えている。

  1. ・きちんとした理論基盤・実証分析を踏まえつつ、
  2. ・必ずしも学究的な先進性を競うことを目的とせず、
  3. ・社会の未来について、自分の頭できちんと考えたいと望んでいる読者層に対して、思考の枠組み、材料、手掛かりを提供することを重視する。

○すなわち、我々は下村博士及びその研究業績を神格化することを意図しているのではなく、博士の政策課題に関する情報発信の姿勢・方法論を踏襲することを目標としているのである。

以上

 ■ 一橋大学 経済研究所付属 社会科学統計 情報研究センターが「下村治博士関連資料」を公開しました。

経済社会システムの転換と金融の役割:2014年度「金融班」研究活動の成果から(2015/8掲載)
福田慎一(東京大学大学院経済学研究科 教授「金融班」主査)
金融経済学の新潮流:2013年度「金融班」研究活動の成果から(2014/8掲載)
福田慎一(東京大学大学院経済学研究科 教授「金融班」主査)
金融経済学の新潮流:2012年度「金融班」研究活動の成果から(2013/7掲載)
福田慎一(東京大学大学院経済学研究科 教授「金融班」主査)
シンポジウム報告「国際金融の新たな展開と日本企業のダイナミクス」(2013/6掲載)
パラダイム転換期の経済学と金融:2011年度「金融班」研究活動の成果から(2012/7掲載)
福田慎一(東京大学大学院経済学研究科 教授「金融班」主査)
金融研究のフロンティアを求めて:2010年度「金融班」研究活動の成果から(2011/7掲載)
福田慎一(東京大学大学院経済学研究科 教授「金融班」主査)
シリーズ「社会の未来を考える」第2回<その1>
下村会長に聞く~レーガノミックスの破綻とその後~(2011/7掲載)
下村 治(財団法人日本経済研究所 会長※)
石黒 隆司(財団法人日本経済研究所 理事長※)
※本稿は、日経研月報:昭和62年4月号に掲載された対談録を再掲するものである。 肩書き等は掲載当時のままである。
シリーズ「社会の未来を考える」第2回<その2>
グローバリゼイションとはレーガノミクスの別の顔(2011/7掲載)
大瀧 雅之(東京大学社会科学研究所 教授)
シリーズ「社会の未来を考える」第1回〈その1〉
不況の背景(2011/6 掲載)
下村 治(財団法人日本経済研究所 会長※)
※本稿は、日経研月報:昭和62年3月号に掲載された講演録を 再掲するものである。講演会は、昭和62年1月に開催されたもので、 肩書き等は掲載当時のままである。
シリーズ「社会の未来を考える」第1回〈その2〉
下村 治博士と日本の貿易黒字問題(2011/06掲載)
花崎 正晴((株)日本政策投資銀行 設備投資研究所長)

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