「起業家が創り出す新しい未来」第2回 株式会社MEDITA CEO 田中彩諭理
2021年9月号
「DBJ 女性新ビジネスプランコンペティション」(以下、DBJ コンペ)は、これまで8回開催され、70名を超えるファイナリストを選出しています。今回より、その起業家たちによる新しい未来へ向けたメッセージをご紹介します。本稿では、第7回DBJ コンペのファイナリスト、株式会社MEDITA CEO 田中彩諭理氏にオンラインでインタビューした内容をお伝えします。
■ 事業概要
「『生きる』に寄り添うテクノロジー」をミッションに、2017年9月、株式会社HERBIO(ハービオ)を設立しました。2021年7月に株式会社MEDITA(メディタ)に社名を変更しています。弊社は、へそ部の周辺温度と直腸温(深部体温)との相関関係を明らかにし、その研究成果をもとに、へそ周辺部に装着するウェアラブルデバイスを開発しました。その装着により安定的かつ連続的に得られる深部体温の変動データを活用して、医療や健康領域に貢献するソリューションを構想しています。また体温変動データを記録・管理するアプリを提供しています。将来的に、体温の解析データを元に、ユーザーは体調や健康状態を可視化することができ、適切な医療を受けられるきっかけとなることを目指します。
組織 | 株式会社MEDITA |
設立 | 2017 年9月(旧社名 株式会社HERBIO) |
本社 | 東京都中央区日本橋小舟町7-12 グリーンパーク日本橋三越前1101 |
HP | https://www.medita.inc |
(2021年7月現在)
■ 目指す企業の姿
私は長年、重いPMS(生理前の心や体の不調)に悩まされ続けており、基礎体温を計ることで対処してきましたが、手間がかかり持続できませんでした。また、自宅介護中の祖父が体調を崩し、家族が気づいた時には肺炎の悪化で高熱を出して、急に亡くなってしまったことに後悔の思いが強く残っています。この経験から体温の変動を測定したデータの重要性を誰よりも強く感じ、それが起業のきっかけとなりました。
体温変動のデータという可視化できる方法で人を救いたい、と強く感じたのです。そのためには科学的な知見やエビデンスの蓄積が不可欠です。もともとIoTベンチャーで活動していた経験から、研究の重要性は認識していたので、起業を通じて、きちんとしたエビデンスと研究を軸にテクノロジーを結び付け、社会実装していくことでイノベーションを起こしたいと考えました。現在も、常に変わり続ける社会に合わせて実装し続けるよう努力しています。
コロナ禍において、悲しいことに自宅で診療の待機をしている方が亡くなるケースもあり、体温が身近に感じられる状況になりました。しかしその一方で、誰がどこにいても安全な医療が受けられる、ということが実は難しい世の中だということに気づかされました。そのため、私たちは、誰がどこにいても安全な医療を受けられる手助けをしていきたいと思っています。それは日本国内に限ったことではありません。海外の、しかも僻地に住んでいる方が、私たちが開発したウェアラブルデバイスとその体温変動データにより、日本をはじめとする優秀な医療機関とつながり、病気の早期発見などにつなげることができると考えています。どの場所の誰に対しても、同じように貢献していきたいと思っていますので、その結果が海外への進出ということだと思います。
新社名MEDITA の由来は、「メディカルデバイス」(医療機器)と「データ」との組み合わせで、その二つをつないでいく架け橋になる役割をしていこうという強い思いの表れです。
■ 日本社会へのメッセージ
私たち自身が日々新たな研究を行い、その成果を人々の生活に還元していく、というベンチャー企業としての役割を、きちんと果たし続けていこうと思っています。ベンチャー企業ならではの強みを生かし、枠にとらわれず発展していきたいと考えています。日本社会全体においても、「技術」と「研究」を日々高めていき、海外に通じるような企業が数多く生み出されてほしいと思います。
現在のコロナ禍では、政治、福祉、そして医療の分野が変わる大きな起点となりました。まさに今、変革期を迎えているのではないでしょうか。新たな「研究」が、社会解決のための垣根を超える大きな役割を果たすと思っています。一歩ずつ進む「研究」が、その後大きな一歩となり、10年後、また30年後に大きな変革を起こすのではないかと考えています。一歩ずつの点と点が結ばれて、未来へ向かう直線につながっていく、今まさにグラデーションを経て、違う色になっている途中だと思います。これからどんな色になっていくのか、それは私たちの手にかかっているのです。
私が、どんなに辛いことがあってもこうして頑張り続けていられるのは、ひとつに「未来の可能性を信じている」からです。未来には、計り知れないほど大きな可能性があります。少し前までは実現不可能だと思われていたことが、どんどん実現されています。これからも、未来の可能性を信じながら、大企業や大学の研究者の先生方とも協力し合い、明るい未来を作り出していきたいと思っています。
■ インタビューを終えて
「第三者から見ても嘘ではないとわかるデータの信頼性が、自社の一番の強みであると思っています」という、研究者として冷静に物事を見つめて判断する、自信に満ちた目。そして、ご自身の体験から起業し、「誰がどこにいても安全な医療を受けられるよう貢献していきたい」と語る熱いまなざし。その二つをバランスよく併せ持っているのが田中社長です。「大切な人を失くしたくない」という、叫び続けている心の声が、新しい社会を作り出すための力の源になっているようです。「30年後の未来が楽しみです」と語る口調はエネルギーに溢れており、それでありながら爽やかな笑顔が印象に残るインタビューでした。
ベンチャー企業のひとつのhub として、大企業と一緒に作っていく未来も思い描いています。今後の新しい「研究」や、新しい企業や人との出会いによって、田中社長を囲む輪がますます広がっていくことが期待されます。