Viewpoint
コロナ禍を超えて ~「ワーケーション」は地域活性化につながるか~
2024年6-7月号
「ワーケーション」とは何かご存知だろうか。ワーケーションとは、ワークとバケーションを合わせた造語で、観光地やリゾート地等非日常の場において、休暇をとりつつテレワーク等により仕事を行う過ごし方をいう。このワーケーションは、2000年代に米国で誕生したものだが、わが国でも2017年頃から「働き方改革」の実施手段として注目を集め、さらに近年、コロナ禍に伴い、各地でテレワークの普及やインバウンド需要減を背景に、関係人口増等による新たな地域活性化の道として、その導入に向けた取組みが活発に行われている。因みに、ワーケーションに取り組む自治体が参加する「ワーケーション自治体協議会」の会員数は、コロナ禍前の発足時、2019年11月に65自治体であったのに対し、2年後の2021年11月には202自治体と3倍強に増加、コロナ禍を機に、各地でワーケーションへの関心が急速に高まったことが見てとれる。そこで、本稿では、このコロナ禍の置き土産ともいうべきワーケーションが、コロナ禍を超え、果してわが国地域社会に定着し、地域活性化をもたらすのか、愚考してみたい。
ワーケーション事業の内容は実に多岐にわたるが、主なタイプとしては、①比較的短期の休暇で観光やリゾートライフを楽しみつつ、通常の仕事も行う「休暇活用型」(南紀白浜等)、②リゾート地等非日常空間で会議・研修・交流等を行う「会議・研修型」(軽井沢等)、③地域に滞在、参加者相互、参加者と地域社会等の多様な交流を通じて、地域課題解決をめざす「地域課題解決型」(南房総市等)、④長期間、生活や仕事の拠点を移動する「拠点移動型」(転居やオフィス移転)等があげられる。また、ワーケーション事業の担い手も多様であり、プログラムを企画・提供する供給者としての①受入地域の自治体等、②観光、運輸等関連事業者、プログラムへの参加者としての③企業・団体、④その従業者 の4者が主な関係主体となる。
ただ、わが国ワーケーション事業は、近年、緒についたばかり。都市部従業者の多くがテレワークを経験する一方、ワーケーション経験者は1割未満と目される等、受入地域側の熱量のわりにその普及は遅れ気味であり、インバウンド需要の回復に伴い取組みを止めた地域もあるようだ。この背景には、筆者も含め自らの職場と離れた場所に移動、滞在することへの逡巡、ワーケーションの就業形態に対する企業側の就業管理等制度面の未整備、受入地域側と参加側の連携不足等「不慣れ」に起因した課題があるものと思われる。やはり、オンとオフの切替えが苦手なわが国では、ワーケーションは定着しないのであろうか。いや、ワーケーション事業は多様であり、受入地域が企業とその従業者のニーズを踏まえ、双方にとって魅力的な地域固有のプログラムを企画・提供できれば上記課題も解決され、コロナ禍後も普及・定着、地域に活力をもたらすことが期待できるのではなかろうか。特に「地域課題解決型」は、どの地域でも創意工夫次第で関係人口増等による活性化を実現するチャンスがありそうだ。ワーケーション事業のカギは、受入地域と参加する企業、従業者との信頼関係であり絆である。それゆえ、各地域がインバウンド需要減の補填策といった短期的視点ではなく、コロナ禍以降の地域活性化策として、地域資源とユーザーニーズを踏まえ、長期的視点に立って取り組むことが重要となろう。
最後に私事ではあるが、昨夏、母校が高校野球で107年ぶりに全国制覇をした折のこと。母校のOBが大挙して連日各地から甲子園に結集したことは記憶に新しいが、彼らはこの甲子園行きを職場等にどう説明していたのか。休暇取得、在宅テレワーク、関西出張等、方便も色々ある中で、何と「ワーケーションat甲子園」を宣言した猛者もいたらしい。ただ、筆者の知る限り甲子園のスタンドで仕事をしている者はいなかったのだが……