『日経研月報』特集より
サーキュラーエコノミー型ビジネスモデルへの転換に向けた重要な視点
2023年3月号
1. サーキュラーエコノミーとは
2. 3R政策との違い
3. 国内の資源循環政策
4. 循環性の高いビジネスモデルへの転換に向けたポイント
5. 循環型ビジネスの実践例
5.1 サプライチェーン間の連携事例
5.2 デジタル技術の活用事例
6. 循環型社会の実現に向けて
1. サーキュラーエコノミーとは
私たちの生活は、大量のモノに支えられている。モノをつくるためには大量の天然資源を必要とするが、その消費スピードは自然が再生するスピードを約1.75倍超えているという。また、消費されたモノの大部分は廃棄され、再び製品として再生されるモノは5%に過ぎない。世界の人口は2050年までに約100億人に到達することが予測され、経済規模は約4倍に拡大する見込みであり、このままのペースで消費が続けば、資源の枯渇、廃棄物問題、環境汚染などが一層深刻化することは明白である。
一方、消費の形態は、モノの購買・所有から、モノが提供するサービスや経験重視に変化し始めており、シェアリングやサブスクリプションなどの新たなサービスモデルも台頭している。
こうした資源制約リスクや、新たな顧客ニーズに対応する事業機会の観点から、大量生産、大量消費、大量廃棄という一方通行型の経済モデルを、資源の有効利用率を最大化することで経済成長を実現していく循環型の経済モデルつまり、サーキュラーエコノミー(以下、CE)へ変革していくことが必要になっている。
CEという概念は、2012年にエレン・マッカーサー財団が世界経済フォーラムで提唱したのが始まりであり、3つのCE原則として、①廃棄物・汚染などを出さない設計、②製品や資源を使い続ける、③自然のシステムを再生する、を掲げている。その後、2015年に欧州委員会が「CEパッケージ」を発表し、その概念を経済システムの中で実現し、EUの競争力強化を図る政策として打ち出した。今後、世界中で資源制約リスクが拡大する危機感は高まっており、早期から対応していくことが競争優位性確保や差別化につながるという考えだ。つまり、CE政策は、環境政策であると同時に、企業の持続可能な成長や雇用拡大に向けた新たな産業政策として位置づけられている。
さらに欧州委員会は、2020年3月に上記「CEパッケージ」を更新した「CE行動計画」を掲げ、電子機器や自動車、容器包装などの7つのセクターに重点を置くとともに、製品設計プロセスや消費プロセスにおける資源循環に焦点を当てた内容とした。具体的には、製品デザイン段階における長寿命化や再利用・リサイクル容易化、再生材の使用率向上などを意識することを促すとともに、消費段階においては、製品寿命や、修理可能性、耐久性などに関する製品情報の提供に向けた消費者法を改正し、新たに消費者のための「修理をする権利」を確保した。
また、2022年3月末、欧州委員会は同計画に基づき、既存のエコデザイン指令を改正するCE関連の新法案パッケージを提案した。従来、一部のエネルギー関連製品(約30製品群)に限定して適用されてきた循環性、再生利用などを求める規則を、繊維、建築資材、バッテリー、容器包装、家電などの幅広い産業製品群に適用することを目指している。また、規制対象となる製品について環境情報へのアクセスを可能にする「デジタル製品パスポート」の導入を提案した。これは、製品の原材料に関する組成データや、リサイクル性、耐久性、カーボンフットプリントなどの環境データを集約した情報プラットフォームの総称であり、導入によって製品データの透明性やトレーサビリティを確保するとともに、製品ライフサイクルすべての段階における資源の循環性を高めることが期待されている。
CE政策は、近年のウクライナ危機による資源供給不安定化などを背景として、経済安全保障やサプライチェーン確保の観点からも重要性が高まっている。加えて、カーボンニュートラルが叫ばれるなかで化石資源からの脱却に対する要請が高まっており、資源の投入量および廃棄物の排出量を抑制することがCO2排出量削減にも大きな効果があることから脱炭素化のためにも有効な手段であるとの認識が広がっている。エレン・マッカーサー財団は、CO2排出量削減のためには化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトだけでは不十分で、CEを推進する必要があるとするレポートを発表しており、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて資源循環関連産業が果たす貢献への期待は高い。
2. 3R政策との違い
国内では1990年代から、循環型社会の実現に向けて3R(リデュース、リユース、リサイクル)政策が推進されてきた。EUが掲げるCE政策と国内の3R政策は共通する取組みも多いが、いくつか異なる視点が含まれる(表1)。
一つ目は目的の違いで、3R政策は、廃棄物の最終処分場逼迫を解消するために企業や業界に資源効率向上を促す環境政策であるのに対し、CE政策は、循環性の高いビジネスモデルへ変革することで、産業競争力強化や雇用拡大を目指している。資源循環や廃棄物削減そのものを目的とするのではなく、資源の有効活用を通じた新たな価値創出プロセスを提示している。
二つ目は、3R政策が製品ライフサイクルのうち、特に、最終フェーズである廃棄物管理に力点が置かれているのに対し、CE政策は、生産・消費段階も含めた抜本的なビジネスモデルの転換を求めている。
三つ目は、3Rが、従来の線形経済システム・売り切り型ビジネスモデルにおける組織内・業界単位に閉ざした部分最適の改善活動であるのに対して、CEは、企業・産業の垣根を越えたバリューチェーン全体の最適化を目指す概念である。
最後に、CEでは、3Rに加えてRenewableの視点が含まれており、廃棄物削減に留まらない生態系の再生・修復を目指している点が挙げられる。自然界には廃棄物という概念はなく、すべてが地球の資源として循環・再生されているが、経済活動においても同様に、一切無駄のないエコシステムの実現を目指すという考え方である。
3. 国内の資源循環政策
この3R政策を発展させた取組みとして、国内でも、2020年5月に「循環経済ビジョン2020」が発表された。日本企業が持つ高度な3R技術を用いて、中長期的な産業競争力強化につなげるべく、資源循環への取組みを企業の成長戦略に位置づけてビジネスとして取組みを加速させていく必要性を訴えている。
2022年10月には、経済産業省が「資源自律経済デザイン研究会」と「資源自律経済戦略企画室」を立ち上げた。2020年5月に策定した「循環経済ビジョン2020」を2022年度内に改訂し、成長志向型の資源自律経済戦略の策定を目指している。国内の資源循環システムの自律化・強靭化と国際市場獲得に向けて、技術革新およびルール化を促進するため政策が具体化されることとなっている。
また、資源循環関連産業のうち、特に国内で取組みが加速しているのが、製品寿命が比較的短く、海洋プラスチック問題の観点からも対応が急がれるプラスチックである。政府は2019年5月末に「プラスチック資源循環戦略」を発表し、3R+Renewableに関する年限付きの数値目標を提示した(表2)。マイルストーン達成に向け、プラスチックに関わるサプライチェーン上の企業(素材メーカーから消費財メーカーまで)が連携し、再資源化やバイオマス化などの新たな炭素循環技術の開発、実用化に向けて取り組んでいる。
さらには2022年4月、このマイルストーンを達成するための「プラスチック資源循環促進法」が新たに施行された。内容としては、①設計・製造:環境配慮設計指針の策定、②販売・提供:使い捨てプラスチックの使用合理化、③排出・回収・リサイクル:市町村による分別収集、再資源化の促進/製造・販売事業者による自主回収の促進/排出事業者による排出抑制、再資源化の促進、などが盛り込まれた。いずれも法的拘束力を持った規則ではなく、事業者の自主的な取組みを促すことを主眼に置いた施策だが、プラスチック製造メーカーには、今後策定される環境配慮設計の認定基準などを踏まえた循環性の高いモノづくりが求められており、廃棄物管理に留まらない製品デザイン段階における循環性向上に向けた取組みが強化されている。
4. 循環性の高いビジネスモデルへの転換に向けたポイント
この資源循環を企業の成長戦略に位置づけて、ビジネスとしての取組みを加速させていく際の鍵は何であろうか。先程、CEと3Rとの違いについて解説したが、CEの概念をビジネスに組み込むには、製品デザイン段階から最適な資源循環システムをバリューチェーン全体で設計し、付加価値を創出していく視点が重要である。
通常、一方通行型の線形経済におけるビジネスモデルでは、製品が廃棄された後のことを考慮して製品はデザインされておらず、特に単価の低い製品では、短期利用のみを想定し、計画的に陳腐化させているケースも見受けられる。また、リサイクル性を考慮した設計も少なく、複数の素材から構成される製品は基本的に分解が困難であり、リサイクルする際に余計なエネルギーやコストを消費する。製品デザインの段階からCEを実現するためには、企業や業界の枠を超えた連携を図りつつ、サプライチェーンをサーキュラー型に転換することが重要な鍵となろう。
例えば、国内の資源の最適循環と持続可能社会の実現に資するビジネスの創出に向けて、産官学民による共創プラットフォーム「ジャパン・サーキュラー・エコノミー・パートナーシップ(J-CEP)」が2021年10月に発足している。加盟企業は日用品やエネルギー、IT、食品企業など設立当初の28社から43社に増加しており、サプライチェーン間の企業が連携しながら資源循環による新たな価値創出を目指している。
プラスチックに関しては、サプライチェーン連携のプラットフォームとして、2019年1月に「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)」が発足している。2022年12月1日現在において、487社・団体が参画しており、プラスチック資源循環を前提とした新たなビジネスマッチングや技術開発などが、企業間連携のもと促進され、サプライチェーン全体の最適化および価値創出につながっている。ビジネスとして資源循環の取組みを加速させるためには、幅広いサプライヤーとの連携が欠かせない。
また、もう一つ鍵を握るのがデジタル技術の活用だ。IoTやブロックチェーン技術などを活用することで、製品ライフサイクルにおける資源の無駄を可視化・効率化するとともに、原材料のトレーサビリティを確保することで循環による新たな価値を訴求することができる。売り切り型のビジネスモデルから循環型のビジネスモデルへ転換するにあたり、再生材やバイオ材の含有率や、効率的な廃棄物の回収体制は、企業の競争力を左右する新たなポイントとなろう。
欧州が目指す「デジタル製品パスポート」のような、サプライチェーンに沿った製品データの可視化や共有化を行うデジタルプラットフォームの構築は、国内ではまだ取組事例に乏しいが、環境配慮素材のトレーサビリティ確保や認証制度を活用した環境価値の見える化は今後重要なテーマとなる。
次章では、CEの概念を組み込んだサプライチェーン間の連携事例について、プラスチック資源循環ビジネスを中心に紹介する。また、こうした連携を加速させ、環境価値を可視化するデジタル技術の活用事例についても紹介する。
5. 循環型ビジネスの実践例
5.1 サプライチェーン間の連携事例
(1)製品の長寿命化:「Loop(ループ)」
プラスチックの最大用途は製品寿命の非常に短い容器包装プラスチックである。これらのプラスチック容器包装材は、基本的に使い捨てを前提とした製品設計がなされてきた。しかし、「そもそも捨てることになるプラスチック容器を不要にすれば良い」というコンセプトの下、容器のリユースを開始した米テラサイクル社が提案する循環型ショッピングシステム「Loop(ループ)」を紹介する。Loopは、使い捨て文化からの脱却を目指し、リユース可能な耐久性のある包装材を消費財メーカーが開発し、消費者が中身を消費したあとはLoopのプラットフォームで回収、洗浄し、再び商品を詰めて販売するプロジェクトである。パッケージには、ステンレス鋼などの金属、ガラスやエンジニアリングプラスチックといった耐久性のある素材が使われ、5年から10年かけて償却し、役割を終えたパッケージはテラサイクルがリサイクルするという。
Loopプロジェクトは2019年1月に発表され、ニューヨークやパリで先行して試験サービスが開始されているが、国内でも2020年12月から日本版ウェブサイトが開設され実証実験が始まっている。このプロジェクトに参加する消費者は会員登録し、ECサイトもしくはイオンの店舗で製品を購入することができる。商品を使い切ったあとは、専用の配送バッグに入れて宅配業者に回収を依頼するか、店舗の回収ボックスに返却し、返却すると容器代が戻ってくるという仕組みになっている。
Loopプロジェクトは、容器包装の製品デザインにおいて、「長寿命化し、使い続ける」というコンセプト・価値観を、食料品や日用品、衛生品などの複数の消費財メーカーに同時に浸透させ、CE型ビジネスモデルを広い業界へ働きかけた連携の事例である。製品単価が安く、デザイン性よりコストが重視される容器包装の概念を根本から覆し、長く使い続けたくなるようなパッケージデザインという、消費者に訴求しやすい付加価値を創出し、「製品の長寿命化」という環境配慮設計をビジネス化している。
Loopで注目すべきは、長寿命化した製品について、製品コンセプトを確実に達成させる(長く使いリユースする)ため、回収の仕組みも同時に構築したことである。つまり、製品ライフサイクルにおける最適な循環システムを構築すべく、消費者の利便性を損なわない形で回収の仕組みを設計している。消費者が返却すると容器代を払い戻すインセンティブ付けを行うことで、協力を促している。
Loopプロジェクトに参画する企業は、ステンレスやガラス素材を用いた個性的なデザインを開発することで、容器欲しさにサービスを使い始める新たな消費者を取り込む可能性や、容器の長寿命化に合わせた詰替製品需要を継続的に喚起する可能性がある。長寿命化を意識した製品デザインおよび業界連携を通じたスケールアップにより、製品の差別化、ブランディング向上による新たな価値創出を図る、CE型ビジネスモデルといえよう。
(2)リサイクル容易なモノマテリアル化:「花王とライオンの協業」
2020年9月、競合関係にある花王とライオンが、洗剤などの詰め替え容器を回収して同じ容器に再生産する「水平リサイクル」の実現を2025年までに目指すと発表した。両社は自治体や小売メーカーと連携して共通の回収ボックスを設置し、樹脂ごとの融点の違いを活用した分離手法を共同で検討するとともに、リサイクルが容易な単一素材の開発も進め、将来的に詰め替え容器の設計を一定程度統一したい考えである。
詰め替え容器は、強度や保存性を確保するため、ポリエチレンやポリアミドなど複数の素材を組み合わせて製造されており、またメーカーや商品ごとに容器の設計使用が異なることから、リサイクルするための分離が難しく、一般的に焼却されていた。一方、ペットボトルなどは、業界が連携し、単一素材で製造していることに加え、個別に回収する仕組みが整備されていることから、効率的な回収を可能とし、リサイクル率が高い。ペットボトルのような、業界で連携した素材の開発、リサイクル率の向上を目指すべく、自主的に製品デザイン段階からリサイクルの容易化を意識して競合会社が協業に取り組んでいる。
業界を代表する大手2社が詰め替え容器の設計を一定程度統一することで、従来リサイクルが難しいとされてきたプラスチック廃棄物の資源循環に新たなサプライチェーンが構築される可能性がある。この取組みのポイントとして、協同で使い捨て詰め替え容器を回収することで、資源回収コストの削減、合理化を目指している点が挙げられる。また、使い捨て詰め替え容器を品質の低い製品へダウンサイクルするのではなく、水平リサイクルすることで、製品価値を保とうとしていることも重要なポイントとして指摘できる。
両社の取組みは、先ほど記載したJ-CEPを通じてさらに連携先を拡大しており、日用品メーカー10社で取り組む資源回収「MEGURU BOX®」実証プロジェクトへと発展している。一社では大きな社会的、経済的インパクトを創出しにくいが、同業他社が連携しスケールアップさせることで、社会全体を巻き込みながら付加価値の最大化を目指す先駆的な取組みといえよう。
(3)リサイクル素材の活用:「アールプラスジャパン」
2020年4月、使用済みプラスチックの再資源化事業に取り組む共同出資会社「アールプラスジャパン」が設立された。プラスチックのバリューチェーンを構成する12社、サントリーMONOZUKURIエキスパート、東洋紡、レンゴー、東洋製罐グループホールディングス、J&T環境、アサヒグループホールディングス、岩谷産業、大日本印刷、凸版印刷、フジシール、北海製罐、吉野工業所が中心となり、2027年の実用化を目指す。設立にあたっては、プラスチック基本方針として、「2030年までに、グローバルで使用するすべてのペットボトルの素材を、リサイクル素材と植物由来素材に100%切り替え、化石由来原料の新規使用ゼロの実現を目指す」旨を発表している業界大手のサントリーが主導した(図1)。
2012年から、サントリーが米国のバイオ化学ベンチャー企業であるアネロテック社(Anellotech Inc.)と、独自の熱分解、触媒反応を用いたバイオ素材ペットボトルの研究開発を進めるなかで、使用済みプラスチックにも当該触媒技術の応用ができる可能性を見い出した。この技術を実用化し、プラスチックの課題解決に貢献したいという思いで各社が一致し、共同出資会社を設立したという経緯である。
プラスチックリサイクルやバイオプラスチックなどの新素材開発において最も課題となるのが、コストの観点と需要の確保である。アールプラスジャパンは、需要家であるサントリーが主導し、アサヒホールディングスなどの同業他社も巻き込みながら、あらかじめ需給マッチングをしたバリューチェーン上の企業が、開発資金を拠出することでイノベーションを加速させている点がポイントであり、長期の時間軸で、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期させた新たなモノづくりの在り方を提示している。
(4)可燃ごみの再資源化:「積水化学グループ」
積水化学グループでは、可燃ごみをガス化し、その合成ガスから微生物の力でプラスチックの原料となるエタノールをつくる技術を2017年に開発した。現在、実用化に向けて岩手県久慈市に商用の10分の1規模の実証プラントを建設し、2022年春から稼働を開始している。
この取組みを実現させるため、積水化学グループはさまざまなパートナーと連携している。まず原料となる廃棄物の調達にあたっては、実証プラントが立地する久慈市と提携し、久慈市の廃棄物総量の3分の1にあたる約20トン/日の可燃ごみを受け入れている。通常、組成が雑多で不均質且つ汚れのひどい廃棄物はリサイクル原料に不向きとされるが、当社が採用するガス化技術は雑多なごみを化学的組成が単一な原料(COとH2)に変換可能であるため、廃プラスチックに限定されない可燃ごみを受け入れ可能である点が強みである。
また、上記の合成ガスからエタノールを生成するプロセスもユニークだ。米国のランザテック社と協働し、常温常圧下で微生物を活用したエタノール生成を行っている。従来の化学合成プロセスではエネルギーを多量に消費するが、微生物を活用したバイオプロセスに転換することで製造工程におけるCO2排出量削減にも貢献しており、近年世界的に注目されている「バイオものづくり」の好例といえよう。
加えて、再生する最終製品の出口戦略だが、当社は生成したエタノールを汎用性の高いエチレンに変換するため、住友化学との連携を発表している。両社が協力することで、可燃ごみからエタノール、エタノールからエチレンへと変換し、さまざまな基礎化学品の原料として循環していくモデルが構築される。さらには2022年7月に資生堂も含めた3社間での協業を発表し、資生堂は店頭を通じたプラスチック製化粧品容器を回収しながら、積水化学グループと住友化学が再生したエチレンを化粧品容器へと再生しようとしている(図2)。
この一連の循環モデルのポイントは、受け入れ可能な廃棄物の許容範囲が広く、且つ生成される再生材の汎用性が高いことから、動静脈を有機的につなぐソリューションとなる点である。また、微生物を活用したバイオプロセスでのモノづくりへの転換は、資源効率以外の環境側面(エネルギー効率など)にも配慮しており意義が高いといえよう。
5.2 デジタル技術の活用事例
(1)廃棄物の回収効率化:「廃棄物収集サポートシステム」小田急電鉄
小田急電鉄は、2021年9月にウェイストマネジメント事業「WOOMS(ウームス)」を事業化した。これは、主に自治体や廃棄物排出・収集事業者を対象に廃棄物収集業務を効率化することで設備・人手不足を解消し、そこから生まれたリソースをごみの削減やリサイクルの拡充へとつなげる取組みである。本事業では、資源・廃棄物に関わる自治体や事業者に、テクノロジーを活用した収集から事務業務の効率化を支援する「収集・排出サポート」と、効率化による余力を活用し資源循環を高める施策を提供する「資源循環サポート」で構成されるソリューション・ソフトウエアを順次提供している。これは、IoTを活用したCE事業を営む米ユニコーン企業であるルビコン・グローバル社のテクノロジーやデータを活用するものとなっている。
2019年6月に、小田急電鉄と座間市は、「CE推進に係る連携と協力に関する協定」を締結し、2020年8月から座間市内の資源物・ごみ収集業務のスマート化に向けて実証実験を開始している。WOOMSは、この実証実験を通じて開発・改修を行っているものであり、廃棄物の収集ルートの最適化、効率化を実現するとともに、廃棄されていたごみをいかに再資源化するかを目的としており、「廃棄物回収の最適化」に留まらない「資源循環の最適化」を目指している。
廃棄物排出事業者から廃棄されるものの中には、本来リサイクル資源として活用可能なものであっても、少量しか排出されず、それのみの回収を収集事業者へ依頼することは困難であるため、一般廃棄物として廃棄されている品目も存在する。それに着目し、各地に分散する特定の少量資源を一カ所に集約し、その品目に特化した収集ルートをシステムにて作成することで、効率的な資源回収が可能となり、廃棄物を資源として原料調達することを検討している民間事業者に対して、安定的・効率的な原料供給が可能となる。
ケミカルリサイクル技術などを活用した資源循環ビジネスでは、経済性確保の観点から規模の拡大が求められるが、その際、ボトルネックとなるのが原料(廃棄物)の安定調達と調達量の拡大だ。小田急電鉄が提供する「収集・排出サポート」は、回収ルートや積載量を最適化することが可能であり、安定的・効率的な原料調達が実現するだろう。デジタル技術の活用によって、資源循環を前提としたサプライチェーン間の連携がさらに加速していくことに期待したい。
(2)環境配慮材料のトレーサビリティ確保:「ブロックチェーン技術活用」旭化成
再生材やバイオマス材などの環境配慮材料のエビデンス管理に向けては、三菱ケミカルや旭化成、三井化学などが、ブロックチェーンを利用したデジタルプラットフォームの構築を目指しており、原材料のトレーサビリティ確保を通じて消費者の行動変容を促す仕組みづくりを進めている。例えば旭化成では、ブロックチェーン技術を活用してプラスチック資源循環を可視化する「Blue Plastics」プロジェクトに取り組んでいる。試作品段階ではあるが、スマートフォンアプリを用いて、製品の購入時にリサイクル率が確認できるほか、廃棄(リサイクルボックスへの投入)時にはポイント付与により環境貢献が可視化されている。また、「旅するプラスチック」と名付けてリサイクルチェーンを追って見ることができるなど、資源循環という切り口から、新たな価値提供を試みている。
資源循環の取組みとデジタル技術を効果的に組み合わせることで、再生材やバイオマス材の訴求力を上げていくことが、資源循環ビジネスの成功の鍵を握るといえよう。
6. 循環型社会の実現に向けて
こうしたサステナブルで新たなビジネスモデルへの移行やイノベーションの促進に向けては、金融を活用する動きがある。欧州委員会は2018年3月に、サステナブルファイナンスに関する10のアクションプランを公表しており、第1のアクションとして、「サステナブルな経済活動についてのEUの共通基準(タクソノミー)」の策定を掲げた。CE基準についても、技術スクリーニング基準が検討されており、二次原料の使用量、耐久性、修理しやすい製品設計などに関する目標が設定されようとしている。これまで環境分野に係る投資対象は気候変動分野が中心だったが、CEの分野を対象としたESGインデックス・ファンドやテーマ型投資ファンドが組成され始めており、企業に対するCEに関する開示要求が高まることも予想される。
国内においても2021年1月に、経済産業省および環境省より「CEに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」が発表されている。これは、プラスチック資源循環ビジネスやCEへの移行に向けて、企業と投資家との間で対話、エンゲージメントを促し、適切な資金供給とイノベーションの推進を目的としたものであり、世界初のCEに特化した開示・対話ガイダンスである。2017年6月に公表された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の最終報告書における開示のフレームワークを参考に作成され、TCFD最終報告で開示が推奨される「ガバナンス」、「戦略」、「リスクと機会」、「指標と目標」の4項目に加えて、「価値観」、「ビジネスモデル」の2項目が追加された計6項目において、開示が推奨されている。
最近では2022年3月にリコーグループがCEに特化したレポートを発行しており、循環経済への移行に向けて、企業、投資家双方の関心の高まりがうかがえる。また、環境省や経済産業省、日本経済団体連合会が立ち上げた「循環経済パートナーシップ(J4CE)」では、官民連携で循環経済を推進する方針を示しており、「注目事例集」を通じて、多様な素材やビジネスモデルにおける取組みを紹介している。資源循環ビジネスにおいては、既存のビジネスモデル、サプライチェーンのままでは抜本的な解決につながらないことも多い。事例集の後半では、同業種、異業種を含めた連携事例などが紹介されており、資源効率の最大化を目指した新たな企業間連携のヒントとして参照されたい。
2050年に向けて、世界的な人口増加や経済成長に伴う環境汚染、気候変動に伴う物理的・移行リスクは高まっている。企業は、カーボンニュートラルと廃棄物のゼロエミッションを実現しながら、長期にわたり成長していく戦略を検討していく必要があり、CEへの移行に向けたビジネスモデルの転換は、競争優位性確保や将来へのレジリエンス向上の観点から、その重要性が増している。
製造プロセスにおける改善や効率化を通じた省資源化、コスト削減の取組みには限界があり、原材料の選択、製品デザイン、個客ニーズに沿った販売モデルにおける抜本的なビジネスモデルの転換を通じた新たな収益機会を模索していく視点が欠かせない。そのためには、サプライチェーンを構成するすべてのプレイヤーがCEの視点を取り入れ、連携することが、循環型社会の実現に向けた鍵となる。
日本企業が持つ高度な3R技術を連携させ、最終消費者をも巻きこんだ、製造から利用、廃棄、再生までの一貫した循環サイクルを確立することで、企業・業界単位に最適化された資源循環活動を社会システム全体の最適化へと広げ、新たな価値創出を目指す企業の長期成長戦略に期待したい。