「起業家が創り出す新しい未来」第3回 ダンウェイ株式会社 代表取締役 高橋陽子
2021年11月号
「DBJ 女性新ビジネスプランコンペティション」(以下、DBJ コンペ)は、これまで8回開催され、70名を超えるファイナリストを選出しています。本シリーズは、その起業家たちによる新しい未来へ向けたメッセージ等をご紹介する企画です。今回は、第4回DBJ コンペのファイナリスト、ダンウェイ株式会社 代表取締役 高橋陽子氏にオンラインでインタビューした内容をお伝えします。
■ 事業概要
障害者一人ひとりの特性に配慮し、得意なことを伸ばせるよう、社会性と職業の能力の向上を目的とした訓練カリキュラムを組み、企業就労へとつなげています。当社独自の、知的障害の方でもHP 製作が可能なソフト、ICT 治具により、継続的な障害者の雇用、職域拡大の発展を実現しています。さらに、2020年12月にリリースし、特許を取得したキャリアサポートカルテ、「シームレス バディ」により、利用者の潜在的な能力を発掘しながら、より有効なキャリアアップをサポートしています。
■ 創業背景
息子の障害をきっかけに、障害者を取り巻く大きな社会的課題に気づき、その課題解決のため、2011年にダンウェイ株式会社を設立しました。フォーカスした課題は、障害者の就労状況です。現在、18歳以上の障害者のうち、雇用率は6%しかなく、その他の方は在宅などで留まっている状況です。驚くべきことに、この状況は何十年も変わっていないのです。やり方を変えない限り、未来永劫、この状態は変わらない、そこを何とか変えていきたい、というのが創業の背景です。
正直、息子に障害があると知ったばかりの頃は、受け止めきれずに殻に閉じこもった時期もありました。ですが、元々、総務人事系の仕事や、障害者雇用に関わる仕事をしていたこともあり、そういった経験を生かして、一か八か課題解決に挑戦してみようと決めました。息子を含めた障害者に限らず、その人の秘めた能力を発掘・開花させ、輝く人生の扉を開けるチャレンジを提供していきたい、そう思って事業を展開しています。
そういった背景があるので、ダンウェイのビジョンとして、障害の有無に関係なく、その人の得意なことを活かした自立の実現、支えあって生きていける社会づくりの実現、ということを掲げています。
組織 | ダンウェイ株式会社 |
本社 | 神奈川県川崎市中原区新城1-12-15 |
創立 | 2011年1月4日 |
事業開始 | 2011年3月1日 |
HP | https://www.danway.co.jp/ |
(2021年10月現在)
■ 創業背景
課題解決には、障害者の能力の可視化が必要だと思ってきました。DBJ コンペ出場時から、これに対する構想を練ってはいたのですが、2020年12月にようやくこのシステムをリリースしました。それが、「シームレス バディ」です。障害者の雇用が進まない要因の一つには、雇用する企業側が、被雇用者となる障害者の能力が分からない、学校に専門教育の仕組みや教材、指導方法が無い、といったことが挙げられます。それらを解決するために創ったのが、利用者の障害特性や能力を可視化し、理に適った職場配置や教材の提案まで行う、キャリアサポートカルテとしてのツールです。
障害特性が分かることで、得意分野、つまり職業能力が明確になります。例えば、学校では、個々の能力に合わせて目標設定がしやすくなり、教員は質の高い教育を提供できます。また、就労現場では、適性を生かしたマッチングや働きやすい職場環境づくりが実現できます。
「シームレス バディ」は、特別支援(養護)学校や支援級、定時制などを中心に活用されています。また、既に大企業でも活用されていますが、2021年度は埼玉県の企業における障害者教育訓練事業として、最大20社での活用も決定しています。実は、同県の特別支援学校でも活用されているため、卒業後の進路先としての企業と、現在教育を受けている学校とが、「シームレス バディ」によってつながるという、ダンウェイが目指す展開に近づいてきています。さらに、「シームレス バディ」を扱う側のキャリアコンサルタントや社会保険労務士への人財育成サービスも展開することで、より盤石なサポート体制を整えています。
■ 創業背景
「シームレス バディ」はお持ちのデバイスからWEB にアクセスして能力の可視化ができます。今後は、その第2フェーズとして、AI を活用し、障害者それぞれの特性に合わせた合理的配慮や教材までをも提案ができる形を目指しています。例えば、持続力や集中力に課題のあるAさんが、生産性を上げるために効果的だった施策をデータとして蓄積し、それをもとに、類似した課題を持つBさんに対しても、最適な施策をAI によって提案できるようにするのです(特願2019-014919 特許査定済)。
「シームレス バディ」が最も得意としているのは障害者と企業とのマッチングであり、その部分でおいて2021年1月に特許も取得しています(特許第6831118号)。
マッチングにおいて特に特徴的なのは、概念理解、自己・他者・相互理解、情報保証を測ったうえで、基本的な労働スキルをつけることができるところです。具体的には、左右の理解、スケジュール立て、視覚・聴覚トレーニング等、社会参加に必要な理解度を測定し、それぞれの特性に合わせた最適な活躍方法を提案することができます。
障害の有無に関わらず、人は一人ひとり、得意なところと苦手なところがあります。「シームレス バディ」をさらに発展させることによって、ダンウェイは、障害のある方の秘めた能力を発掘、開花していき、自立支援、社会との共存を目指します。
■ 社会へのメッセージ
自分自身、これまで周りの人々に助けられ、自分でも気が付かなかった自分の可能性を伸ばす機会をいただいてきました。従って、障害者にとっても、可能性は無限にあると信じ切ることが大切だと思っています。当社の事業は、一人ひとりの人生をいかに充実させるか、にフォーカスを当てています。人は誰でも、得意なところ、不得意なところがありますので、お互いを認め、支え合い、ともに成長できるように、一緒に考えながら社会をつくっていきたいです。
※ 文章内では、ダンウェイ株式会社ウェブページの表記に倣い、「しょうがいしゃ」の表記を「障害者」としています。個人の障害と社会の要因が重なり、障害者は生きにくくなっています。社会が変われば、障害がなくなります。社会の変化を目指しているからこそ、ここでは「障害」と表現しています。