World View〈アジア発〉シリーズ「アジアほっつき歩る記」第102回

マレーシア クアラルンプールの今

2024年2-3月号

須賀 努 (すが つとむ)

コラムニスト・アジアンウオッチャー

一応コロナ禍が過ぎ去った。2023年度は4年ぶりに本格的に旅を再開し、これまで訪れてきたアジア各地を再訪している。今回はクアラルンプールにちょっと寄り道してみた。

KL空港の入出国

ホーチミンからベトナム航空で2時間足らずのKL。今後拠点をベトナムにして、アジア各地を回るという手もあるな、と思いながらKL空港に到着する。バスでターミナルまで運ばれ、そこから歩いて出口を探すが、なんと遠いことか。ようやく入国審査場まで来て驚いた。延々長蛇の列が目の前に現れる。しかもその列はなかなか進まず。ちょうどラッシュ時に遭遇したらしく、何と1時間近くかかり、何とか入国した。日本人は事前登録すれば自動ゲートが使えるという記憶が蘇ったが後の祭り。ただただ疲れてしまい、これまで使用したことがない、空港シャトルに乗る。50リンギ、30分で市内中心まで快適に運んでくれる。
因みに帰りはKLセントラル駅からバスで空港に向かう。昔はよくこれに乗っていたのに、乗り場すら忘れてしまう。以前は10リンギだったと思うが、今や15リンギになっている。まあそれでも鉄道の50リンギに比べれば安いが、やはり物価は確実に上がっている。バスは満員の乗客を乗せて走り出す。約1時間かかって空港に着いた。出国審査は入国時よりかなり空いていたが、時々審査が滞り、列が進まない。それはミャンマーやバングラデシュあたりの労働者が、不法滞在、不法労働などを疑われてのことらしい。結構な確率で別室へ向かう。

KLを散歩する

KL散歩は既に第77回『マレーシア 美食と歴史的建築の国』で少し紹介しているが、何度歩いても気持ちが良いので、また歩いてしまった。クラン川とゴンバック川が合流する地点がクアラルンプール発祥の地とされており、クアラルンプール最古のモスクといわれる「マスジット・ジャメク」が見える。ここは美しいイスラム寺院として知られ、観光客に無料開放していたので見学する。マレー人が敬虔な祈りを捧げている姿が美しい。
その西側に芝生が映える「ムルデカ・スクエア」が見えた。その周囲に歴史的建物がごっそり集まっているのが興味深い。1897年に建てられた「スルタン・アブドゥル・サマド・ビル(旧連邦事務局ビル)」が聳え立つ。複合様式で圧倒的な存在感。入ってみたかったが、門は閉ざされている。その横に観光案内所があったので、地図をもらいながらこの建物の写真を撮る。

その先の「ナショナル・テキスタイル・ミュージアム(国立織物博物館)」は、もとは1905年に鉄道事務局として建てられた。民族衣装などが展示されているが、特に華人に注目して見てみる。ババニョニャスタイルなどが興味深いが、この辺は知識を得てから見ないと理解が難しい。マイノリティである華人は、マレー人から見れば、興味の対象なのだろうか。
そこから右に曲がると「KLシティギャラリー」が見えてくる。1898年に建てられたコロニアル式の建物を改築した資料館。1階にはKLの歴史が学べる展示室があり、街が形成された様子、客家が大いに貢献したことなどが分かる。2階には街を模型で再現したコーナーがある。この辺は観光客が多い。更に進むとお目当ての図書館がある。1階には先ほどよりさらに詳しいKLの歴史が通路のように展示されていて勉強になる。2階に上がるとほぼ人はいないので、ゆっくりと本を探して読む。もし観光に疲れたら、ここで休むのも良いだろう。
KLの2大モスク、「マスジット・ネガラ」まで歩くとちょっと遠い。その向かいに1910年にイギリス人建築家の設計で建てられた「クアラルンプール駅(旧中央駅)」が見える。ミナレットがあったのでモスクと見間違えてしまった。KLセントラルが今は中央駅だが、ここも現役。この駅の横から線路を撮るのは鉄道オタク的だろうか。
そこから北上してみる。川沿いに「潮州会館、永春会館、安渓会館」が並んでいたのは、やはり初期のKLに流れてきた華人の構図を示しているのだろうか。橋を渡り、川の反対へ行くと、急に景色はインドになる。「マスジット・インディア」という古いヒンズー寺院がそびえていた。1863年インド系イスラム教徒貿易商により建てられたとある。華人の横にはインド商人あり、という構図はアジアのどこの都市でも変わらない。
KLセントラルの隣の駅バンサールは閑散とした、未開発の空間だった。とぼとぼ歩いていて坂道を登ると、高級住宅はあるが大都会とは無縁の静けさだ。その先にお目当ての「天后宮」があった。思っていたよりはるかにデカい。観光バスがやってきて、大勢の華人観光客を下ろしている。そこには「海南会館」もあり、海南人が建てたものらしい。階段を上がると観音がいくつもある。外へ出ると、街が一望できる。結構高いところまで来たとの実感が沸く。

KLで流行っているもの

KLで常に食べる物といえば、海南チキンライス。有名店は観光客向け対応がどんどん進み、価格も上がり、もはや食べたい場所ではないように思えた。一方いつも行く地元民向け食堂で、料金もリーズナブル、味も手堅い。お茶といえば、すぐに中国茶アイスが出て来るのも良い。こんな感じで簡単なご飯を食べるのがKLかな。
最近KLで流行っていると聞いた蘭州拉麺の店にも行ってみた。確かに昼時、店はかなり混雑していた。お客は中国人観光客や華人もいるが、何とマレー系女子もいる。蘭州拉麺は豚肉を食べないマレー系にうってつけの料理、串羊肉も合わせて注文している。実はタイのバンコクやチェンマイでも蘭州拉麺の店が出来ていた。中国のイスラム教徒の食事が東南アジアに広がっているのは、確かに合理的なビジネス手法だと感じる。

著者プロフィール

須賀 努 (すが つとむ)

コラムニスト・アジアンウオッチャー

東京外語大中国語科卒。
金融機関で上海留学、台湾2年、香港通算9年、北京同5年の駐在を経験。
現在は中国を中心に東南アジアを広くカバーし、コラムの執筆活動に取り組む。