「明日の地域シンクタンクを考える」第4回 一般財団法人北陸経済研究所(富山県)

2022年6月号

藤沢 和弘 (ふじさわ かずひろ)

一般財団法人北陸経済研究所調査研究部 担当部長

〈聞き手〉 一般財団法人日本経済研究所 地域未来研究センター

■組織と沿革

一般財団法人北陸経済研究所は、北陸銀行の創業100周年記念事業の一つとして計画され、富山・石川・福井の北陸3県における産業の振興と地域社会の発展に資するため、所要の調査・研究事業ならびに企業経営の指導事業を行うことを目的として昭和53年3月に設立された。現在会員約3,000先を有し、広範な活動を担当する職員約10名を中心に意欲的な事業展開を行っている。
調査研究部・地域開発事業部・情報開発部・事務局の4つの組織を持つが、各部が連携して共同で業務を行うことが多く、少人数でありながら事業活動は多彩である。特にここ10年ほどは、当シンクタンクの第二創業期と位置づけ、従来からの研究調査を軸にしながらも新たな事業を展開してきた。

■調査研究・出版事業

調査テーマは時宜にかなったものや、社会や産業の変化を先取りすることとし、2015年にはIoT関連の自主調査を連載したほか、2020年からはコロナ対応や働き方改革、脱炭素やSDGs、起業といったテーマを中心に取り組んでいる。成果については、会員向け月刊誌「北陸経済研究」で定期的に発表するほか、外部団体との冊子共同制作や大手出版社からの新書発行など中央の経済紙とは一線を画した独自の情報提供に努めている。また、「地方シンクタンク協議会『論文アワード2013』」では優秀賞を、同じく2016年には総務大臣賞を当シンクタンクの研究員が受賞している。

■受託事業

内閣府からの受託である「景気ウォッチャー調査」をはじめ、地域の公共団体や産業団体などからの委託調査を行っているが、研究所の調査活動方針に沿う内容で、かつ月刊誌へ掲載することで地域企業に有用な情報提供が可能な案件、収益性以上に地域の活性化に寄与できるかなどに優先順位を置いている。都市・地域・インフラ・交通・観光・地域振興・街づくりなど「本来の研究所事業とシナジーが得られるもの」「時宜や地域課題に沿ったもの」を中心に絞り込んだ受託事業を行ってきた。近年はリピート調査も多く、産業連関分析や数理モデルを活用したイベントの経済効果測定などでは、地域唯一のノウハウを有する。

■マスコミ関連事業

近年大きく成果を上げたのが情報化・マスコミ戦略である。以前はテレビや新聞などの取材があまりなかったが、積極的な講演活動・雑誌への寄稿により注目されることが多くなり、数年前からFacebookなどのSNSを始め、昨年からはメールマガジンを定期的に配信しているほか、現在では地元新聞で経済用語解説のコラムを定期連載している。HP上に「北陸経済研究所公式動画チャンネル」を開設し、調査レポート・産学連携シリーズ・企業紹介・月刊誌表紙に掲載している伝統工芸・各種セミナー情報の紹介など、50本を超える動画がYouTubeにアップされている。認知度の上昇とともにマスコミ取材やテレビ番組への露出が増加し、近年では報道番組への出演やお茶の間向けニュース解説などで大きな存在感を持つようになった。特にウクライナ紛争や円安に加え、地元繁華街の再開発などのイベントが重なった3月の取材受付は20回を超え、地域に身近な存在となっている。

■セミナー事業

当シンクタンクのセミナー事業への本格的な取組みは、2014年からと比較的新しいが、会員以外も対象としており、2021年度は社員向けビジネスセミナーを約60回開催するとともに、リアル会場、オンラインLive型、オンデマンド型、会場・オンライン融合のハイブリッド型など、ニーズに応じた形で実施している。特にコロナ禍において、密を避けるため一時的には開催セミナーが激減したものの、オンラインLIVE型を2020年5月に、ハイブリッド型を2020年6月にいち早く取り入れており、2021年度には開催回数・参加人員ともコロナ以前の水準に戻している。また、個別企業の人材育成のニーズに対応した各階層やテーマについて人事担当者や研修講師とも個別に協議のうえ企画開催する「オーダーメイド型社内研修カリキュラム」が好評を得ており、チームはフル稼働の状態にある。

■地域シンクタンクのあるべき姿

小規模の研究所で大きな活動成果を上げてきた原動力は、地域とともに悩み、考え、新しい価値の共創を目指してきたことにある。従来は母体行と地方自治体からの出向人員のみでやりくりしてきたが、数年前からは他地域・他業態から経験豊かなプロパー社員を受け入れ、金融以外の視点を活用し、銀行系シンクタンクにありがちな「審査視点」「業界別視点」だけではなく、IT活用や労務管理など「業界横断的」なイシューに取り組むことが多くなった。会員向けの月刊誌を刊行するだけではなく、地域事業者とともにセミナーや講演・シンポジウムなどのイベントを開催しパネリストやモデレータを派遣するなど、主体的な連携や情報交換を行っている。

コロナ禍への対応も早く、2021年後半には「緊急事態宣言期間中の出勤率30%」を達成している。これは当シンクタンクが従来から、場所や時間にとらわれない多様な働き方や働きやすさを追求すると同時に、業務の効率化・生産性の向上を目指し、デジタル化(総務・経理業務を含めた業務のペーパーレス化、各種業務の効率化・自動化(RPA)、属人的業務の排除、情報セキュリティの強化)を以前から進めてきた結果でもあった。フルタイム勤務者はもちろん、パートスタッフでも在宅勤務ができるよう環境を整えており、昨年には単身赴任を廃止している。決して規模の大きな陣容ではないが、人員あたりのパフォーマンスではトップクラスといえる地方シンクタンクである。

著者プロフィール

藤沢 和弘 (ふじさわ かずひろ)

一般財団法人北陸経済研究所調査研究部 担当部長

昭和62年3月 大阪府立大学経済学部卒業。昭和62年4月 北陸銀行入行 福井、堀川、東神奈川(現 横浜)、新宿、東京支店、東京調査部、東京業務部、総合事務部、北海道業務部に勤務、中央信託銀行(株)、北銀ソフトウェア(株)、北陸経済連合会へ出向。平成24年1月 財団法人北陸経済研究所出向。平成28年7月 調査研究部担当部長。平成7年4月 中小企業診断士〈商業〉登録。平成16年4月 ITコーディネータ登録

〈聞き手〉 一般財団法人日本経済研究所 地域未来研究センター