公共施設マネジメントの効果とは?~「プラッツ習志野」を検証~

2022年6月号

兒玉 めぐみ (こだま めぐみ)

株式会社日本経済研究所公共マネジメント本部 主任研究員

I. はじめに

公共施設の老朽化に伴う更新需要の増加、人口減少・少子高齢化、財政のひっ迫等の社会経済環境の変化の下で、限られた資源を活用して必要なサービスを提供するため、地方公共団体においては、公共施設の総量圧縮、管理運営の効率化等が求められている。しかし、公共施設の統廃合・複合化等の具体的な再編・集約は、総論賛成・各論反対の議論となり市民の合意形成が難しく、円滑に進んでいるとは言い難い。
公共施設マネジメントの取組推進に向け、個別の公共施設再編を進める際に関係者の理解の醸成につなげていくためには、効果を具体的に把握し、それを的確に伝えていくことが重要である。
そこで、公共施設マネジメントの取組みによる効果について内容及び分析方法を整理したうえで、具体的な事例において効果分析を行うことで、分析方法の構築を試みた(以下、「本調査」という)。

II. 調査方法

1. 公共施設マネジメントの定義

「公共施設マネジメント」という用語は、場面により異なるニュアンスで用いられることがあるため、本調査における扱いをまず初めに整理したい。例えば、一般財団法人地域総合整備財団における「令和2年度公共施設マネジメント調査研究会報告書」では、「社会環境の変化や地域特性に応じた適切な公共サービスの提供と安定した財政運営を両立させるために、保有する公共施設を総合的に把握し、財政運営と連動させながら管理・活用する仕組み」として用いられている。本調査においても、いわゆる「ハコモノ」の公共施設を対象に上記と同様の視点からその効果や課題について分析することとしたい。
この「公共施設マネジメント」を推し進めるための手段は多岐にわたるが、その中でも中心的ともいえる取組みである公共施設の再編・集約は、建物ではなく機能に着目し、サービスを維持・向上しながら効率化を図る手段である。また、民間活力導入は、公共施設の整備・維持管理・運営において民間事業者が担い手として参画することにより、さらなる負担軽減やニーズに合ったサービスの充実を図ることが期待できる手段である。本調査では、主にこれらの取組みによる効果を中心に把握・分析する。

2. 調査手法

効果の把握・分析は以下の手順で行うこととした。
① 効果項目の把握・整理

事業の具体的な効果を洗い出したうえで、内容別にコスト(歳出削減、財源確保等)、サービス、まちづくり・地域、その他の4つに分類するとともに、図1に示す通り、その効果が公共施設マネジメントの取組みによるものであるか否かを仕分ける。
それぞれの内容ごとに、事業全体として得られた効果と、仮に各施設をそれぞれ単独で更新して従前と同様の運営を継続(以下、「単純更新」という。)した場合にも得られていたであろう効果とを比較することにより、公共施設マネジメントの取組みによる効果を把握する。
公共施設マネジメントの取組みによる効果については、さらに行政が中心に行う再編等の取組みによるものと、民間活力導入による取組みによるものとに分けて整理する。


② 効果を把握するための指標の抽出

各項目について、公共施設マネジメントによる効果を説明し得る指標を抽出する。必要に応じて定性的な指標も対象とする。

③ 指標に基づく効果の分析

②で設定した指標に関し、具体的なデータを収集し分析・検証する。
以上の手順に沿って、既存事例をモデルに地方公共団体及び民間事業者の協力を得ながら具体的な効果を把握・分析することにより、公共施設マネジメントの取組みがもたらす効果及びその分析方法について知見を得ることとした。

III. 事例調査

1. モデル事業の概要

(1)対象事業の選定

本調査では、習志野市における「大久保地区公共施設再生事業」(以下、「本事業」という。施設名称は「プラッツ習志野」)を対象とした。
統合や複合化による再編・集約及び民間活力導入により一定程度網羅的に効果の出現が期待できること、また既に運用フェーズに入っており、かつ必要なデータについて一定程度の収集・把握が見込めること等を条件に選定した。

(2)習志野市大久保地区公共施設再生事業

習志野市は平成17年度から、厳しい財政状況のなか公共施設の老朽化に対応するため再編の検討に取り組んでいる。市の試算では、当時の予算が将来もそのまま続くと仮定すると既存施設の40%しか更新できないという結果が出ており、これを受け策定された公共施設再生計画では、公共施設再生の目標を達成するための手段として「財源確保」「総量圧縮」「長寿命化」の3つの方法を前提条件に設定した。大久保地区公共施設再生事業は、この計画のモデル事業と位置付けられ、駅周辺地区におけるまちづくり事業の一環として、複数の既存施設と中央公園を一体的に再生することとしたものである。
具体的には、生涯学習の拠点をつくるべく、公園周辺の4施設(公民館、市民会館、図書館、勤労会館)及び駅から1㎞圏内の市民利用施設4施設(公民館、生涯学習地区センター、図書館、児童館)の計8施設について、それぞれの機能を保ちながら、公園周辺の3建物に集約する事業をPFI手法により実施している。併せて、市有地を定期借地により貸し出し、PFI事業と一体となった民間付帯事業として住宅や商業機能を導入している。
平成27年5月の「大久保地区公共施設再生基本構想」策定後、基本計画策定や事業者公募を経て平成30年度に工事に着手し、令和元年11月以降3期に分け、段階的に供用を開始している。

(3)事業の実施体制及び公民の役割分担

習志野市はSPCである習志野大久保未来プロジェクト株式会社と事業契約を締結し、当社は、事業全体のマネジメント業務をスターツコーポレーション株式会社に委託している。設計・監理、建設、維持管理、運営についても各民間企業がSPCから受託し、業務を実施しているが、図書館における本の選書等やレファレンスサービス、公民館における講座の企画や生涯学習相談等、一部の企画・実施業務は再編後も市が直営で行っている。

2. 各効果の測定と検証

(1)コストに関する効果

コストに関する効果については、歳出削減(整備費、維持管理費、運営費)と歳入確保・適正化(財源創出・受益者負担適正化)の2つに大きく分けられる。

・整備費の削減効果

仮に各施設を単純更新した場合の事業費と、再編を行った場合の事業費について概算を比較し、効果を把握した。
本事業では、再生計画において施設の再編・集約を計画し、既存施設を活かしたリノベーションと新築を組み合わせている。公民館については大久保公民館と屋敷公民館を中央公民館に、図書館については大久保図書館と藤崎図書館を中央図書館にそれぞれ集約する等、機能向上を図る一方で、全体の床面積を再編前よりも削減している。また、上記コンセプトを反映し民間事業者の提案を求めた結果、従前と比較して223㎡の削減となっており、概算したところ約89百万円の削減となっている。

・維持管理・運営費の削減効果

仮に各施設を単純更新した場合は従前と同様の維持管理・運営コストがかかると仮定し、過年度の決算額と、再編後の業務内容に基づくコスト試算及び直近の予算額とを比較した。
維持管理費に関しては、従前は施設に十分手を入れられていない状態だったこと等から、管理水準を適正化することで必要な経費が増加する計画となった。しかしPFI事業において、点検業務等施設全体の管理を一括して行うことによる効率化や、長期の事業期間を見据えて適切なタイミングで施設や什器・備品に手を入れることによる効率化により、計画よりもコストを抑制している。
運営費に関しては、機能拡充に伴い新規業務・拡充業務が計画されたが、集約による効率化により再編前とほぼ同じ水準で計画され、さらにPFI事業において、マルチタスク化による人員配置の工夫等民間提案による効率化が図られたことにより、従前のコストより抑制されている。

全体として、再編前の実態と比較すると、機能向上や管理水準適正化といった要因で計画では増額が見込まれたが、再編・集約による効率化に加え、民間事業者のノウハウ活用により最終的にコストは削減された。

・余剰地活用による財源創出

施設の再編・集約により敷地内に余剰地約1,337㎡を捻出し、民間付帯施設用地として50年間の定期借地権を設定することで安定的な歳入を得ている。
また、具体的な方向性については未定であるが、エリア外からエリア内に移転集約した施設があることから、これらの跡地についても、売却や貸付等による歳入確保の可能性が考えられる。

・受益者負担適正化

再整備・新機能導入に伴い、利用料金の改定等を併せて実施している。例えば集約して整備した駐車場は、新たに利用料金が設定され、事業期間中に投資回収可能な規模の収益を確保している。
習志野市においては全市的に定期的な利用料金の見直しが実施されてきているが、他都市においては、長期にわたり据え置かれる例も散見される。見直した結果としての金額の増減もさることながら、負担のあり方を適正化する契機となる点が取組みによる効果といえる。

(2)サービス面に関する効果

サービスに関する効果については、表3に示すとおり4つに分類した。それぞれの分類ごとに、単純更新の場合でも得られていたであろう効果と、再編や民活により得られた効果とに分けて整理した。なお本調査では、必要なサービス提供の実現に至ったこと自体が効果であると捉え、具体内容に基づき定性的に整理した。

・新たな機能の導入によるサービス

本事業においては、市民の活動支援等の新たな機能をもつフューチャーセンター(注1)を設けたほか、民間付帯事業としての住宅・スーパーマーケット・カフェの各機能、また多目的な利用が可能となる広場空間等が導入され、新たなサービスが利用できるようになるとともに、交流活動の機会が創出された。これらの機能は、再編・集約によって確保されたスペースを活用しており、また民間付帯事業についての機能の提案や整備、各機能の運営において民間のノウハウが活かされている。

・各施設における新規・拡充サービス

新たな機能以外に、既存の各施設・機能においても新規・拡充サービスが導入された。例えば図書館は、2館を集約し中心館としての機能を持たせたことから蔵書の充実化が図られた。また予約本の受取が21時まで可能(図書館閉館時刻は20時、自動貸出機を利用)となったが、併設の公民館受付がその時間まで空いているために実現したものであり、一体の施設ならではのサービス拡充である。

また、公民館等の貸室機能については、従前は4館に分散し1館当たり最大8室、計29室だったが、集約により敷地内2館で合計25室となっている。これにより、全体の効率化を図りながらも一部の室を防音室や工作室等機能を特化した室として整備し、よりニーズに合ったスペースを提供することが可能となった。

・連携により実現可能となったサービス

ハード面では、例えば「出会いのひろば」は、複数の建物・機能の配置と併せて包括的に検討することにより、一体感のあるまとまった空間として整備され、イベント開催スペースとしての機能のほか、各施設へ至る動線や視線の抜け等も確保されている。
ソフト面では、機能横断的なイベント企画等を通じて、多様な参加者の交流の機会を提供している。またこのようなイベント等の周知の際、例えば市からは学校等を経由した情報の周知を、民間事業者はSNSの活用による周知を図る等、公民が連携しそれぞれのネットワークやノウハウを活かすことが可能となっている。

・機能の確保・向上

例えば駅からすぐの民間施設部分に昇降機が設置されているが、図書館や公民館、フューチャーセンター等の利用者が利用でき、階段やスロープを使用せずにアプローチできる。
また、駐車場に関しても複数施設分を1か所に集約して整備したことで、動線の効率化による安全性確保やわかりやすさの確保につながっているほか、イベント等で特定の施設の利用者が増加した場合でも全体で吸収することができている。

(3)まちづくりに関する効果

表4に示す通り、近隣の商店街や大学、住民等外部との連携や、地域のニーズに応える機能の導入等、周辺とのつながりにおいても効果を生んでいる。

・外部との連携・取り込み

駅からの動線の確保に加え、駅を挟んだ反対側に連なる商店街とも連携し、例えばイベント情報を商店街の掲示板に掲示する、地元の出店者を募ってモーニングマーケットを開催する、連携して講演を企画する等、地域の活性化にも寄与している。
また、前出のフューチャーセンター機能導入により、地域の多様な人々が交流し、活動支援や新たな活動のきっかけが生まれる環境を提供している。
さらに、民間付帯事業として学生向け賃貸住宅を整備し、入居者に地域活動への参加を求める等地域とのつながりを重視した運営を行うことで定住促進への寄与、周辺との人的なつながり・担い手育成が期待されている。

・地域の利便性向上

再編・集約により民間付帯事業の用地を確保し、そこに民間活力により新たな機能を導入することにより、地域の利便性向上等地域課題解決や地域の魅力向上等にも寄与している。
例えば駅から各施設への動線上、広場に面した場所にカフェが設けられているが、各公共施設利用者はもちろん、一般利用者も立ち寄れるようになっている。また駅側に面して地域に不足していた生鮮食料品店を設けることで、地域住民等の利便性向上につながっている。

(4)その他の効果

その他、本調査では詳細の把握には至らなかったが、再編や民活導入を契機とした運営業務の見直しは、従前の運営を継続する場合と比べ、業務効率化による職員負担の軽減や民間運営部分でのマルチタスク化による配置人員効率化等の効果にもつながっている。

IV. 事例調査から得られた示唆

本調査では、既存事業を対象に、主に施設の再編・集約による効果及び民間活力導入による効果をそれぞれ具体的に把握・整理し、分析を行った。
まず、基本的な取組みともいえる総量圧縮や維持管理・運営の効率化によるコスト面での効果を、一定の条件の仮定のもと定量的に把握・検証した。
再編する場合の想定コストを、各施設を単純更新する場合のコストと比較することで定量的に効果を把握できる。単純更新の場合の想定コストは整備費の単価や従前の管理運営コストを仮置きすることで対応した。なお、PFI事業におけるVFM(バリューフォーマネー)は、再編後の計画について従来手法とPFI手法によるコストを比較したものであるため、再編による効果は別途算出する必要がある。維持管理コストについては、従前は限られた財源の中で長期的な視点に基づく維持管理を十分に行えていない場合が多く、再編を機に適正化が図られることで結果的に増額となることも想定される。安全性を確保し、ライフサイクルコストの視点から効率的な維持管理を行うには、効率化は図りつつも必要なコストをかけて一定の水準を保つ必要がある点に留意が必要である。
またサービス面に関しては、再編後の具体的な新規・拡充サービスのうち、公共施設マネジメントによる効果の部分を抽出し、定性的な情報を中心に分析した。これにより、利便性・安全性等の向上、サービス水準や維持管理水準の向上・適正化、新たなニーズへの対応等の効果を確認した。さらに、敷地外との組織・人的つながりや機能連続性の視点から、まちづくりの面の効果についても同様の方法で分析を行い、再編、民活それぞれにおいて地域課題解決、魅力向上につながる工夫が実現していることを把握した。その際、提供する内容が同じであっても、地域・利用者のニーズや課題によりその効果は必ずしも同じではない点に留意が必要である。また、利用者数の推移等の行動変化に関するデータや、満足度等に関するアンケート調査等の質的変化のデータから定量的に確認することが望ましい。
共通する留意点として、効果検証の実施を見越した従前データの把握やコスト試算の必要性が挙げられる。また、供用開始後の経過年数等、効果検証を実施するタイミングにより、確認できる効果の範囲や精度が異なる点にも留意が必要である。

・今後の展望

今回のモデル事例では、供用開始後、施設により数か月~2年程度経過したタイミングでの実施となったが、例えば賃貸住宅への学生の入居による効果等、中長期的な視点から期待されるものもあり、一定期間経過後に検証することが求められる。また各施設の利用状況等については、コロナ禍で不規則な運営を迫られた状況下でのデータであるため定量的な分析が困難なものもあったことから、今後も継続して定期的に把握を試みることにより、新たな効果やより高い精度での効果の把握・検証が行えると考えられる。
また、今回の1事例だけでなく他の事業において同様に実施することにより、効果の把握や分析方法の精度を高め、今後の新たな事業検討や効果検証等の際に知見を応用しやすくなるものと考えられる。

V. おわりに

公共施設マネジメントは、今後も地方公共団体が進めていかなければならない取組みである。人口が増え、それに対応して施設を整備してきたこれまでとは異なり、現在保有している施設をすべて維持・更新していくことは難しく、取捨選択をしていく必要がある。その際に、公共施設マネジメントの視点をもった施設の再編の検討が有効であることを、市民等の関係者に分かりやすく示していくことは不可欠である。今回の調査においても、一定の効果が把握できたが、さらにこのような事業の検証が進み、公共施設マネジメントの推進力となることが期待される。

(注1)市民、団体、学校、企業、行政の交流や協働、対話を後押しするプラットフォーム

著者プロフィール

兒玉 めぐみ (こだま めぐみ)

株式会社日本経済研究所公共マネジメント本部 主任研究員

地方公共団体にて都市計画・まちづくり、公共施設マネジメント、建築行政や地方財政等の業務に携わった後、日本経済研究所入社。2020年より現職。