北陸新幹線敦賀開業への期待~開業効果を最大限活かすために~
2023年3月号
1. はじめに
北陸新幹線敦賀開業(以下、敦賀開業)が2024年春に迫ってきた。北陸新幹線が金沢から敦賀まで延伸することで、福井県と首都圏が繋がるだけでなく、2015年の金沢開業以降、金沢駅での乗換を余儀なくされていた北陸三県(富山県、石川県、福井県)が再び新幹線で繋がり、富山駅から福井駅までが1時間以内で結ばれることとなる。このことにより、北陸地域内の交流促進が期待されるほか、域外からの来訪者増加により地域経済が活性化することはもちろん、人流や物流、心象風景が大幅に変容することから、北陸全体に大きな変化をもたらすことが予想される。
(株)日本政策投資銀行(DBJ)では、敦賀開業に関し、北陸・首都圏・関西在住者の意識や福井に対するイメージ等を整理・把握するため、インターネットによるアンケート調査を実施した。本稿では、その結果を踏まえ、福井が開業効果を最大限に活用するために取るべき視点や方策について考察する。
2. 敦賀開業に関する意識調査
【調査概要】
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(1)敦賀開業の認知度・関心度
敦賀開業を知っている人は全体で7割を超えており、うち3割が「時期も含めて知っている」と回答した。居住地別では、福井が96%と最も高く、認知は浸透しているものの、首都圏では55%、関西では45%が「知らない」結果となった。北陸地域以外の特に首都圏での認知度向上が求められる。
敦賀開業後、北陸新幹線に乗車したいかと尋ねた質問では、「(どちらかというと)乗ってみたい」との回答が全体の8割に上り、関心は高い。特に、北陸での関心度は三県ともに8割を超えている。認知度がまだ高くない首都圏・関西エリアでも、「(どちらかというと)乗ってみたい」が7割強となった。開業後に向けては、「乗ってみたい」意欲を実際の乗車に繋げる工夫が求められよう。
(2)敦賀開業により予想される生活の変化
敦賀開業により想定される自身の生活の変化について尋ねたところ、「(少し)あると思う」(「あると思う」と「少しあると思う」の合計。以下同様。)との回答は、首都圏・関西では1割台、北陸三県では4割前後から5割弱となっており、具体的な変化のイメージはまだなさそうだ(図4)。
具体的な生活の変化を項目別に尋ねた質問では、観光目的での訪問機会の変化に関する項目で「(まあ)当てはまる」との回答率が高くなった。特に、福井と首都圏、富山と関西、富山と福井で、相互に「観光に行きやすくなる」との回答が多い。一方、ビジネス目的では、観光目的に比べ訪問機会が増えるとした回答割合は低く、今のところ、敦賀開業により仕事目的の往訪回数が増えるとは考えられていない。
(3)福井に対するイメージ
福井に対するイメージを尋ねたところ、上位は「自然」「食・酒」「温泉」となった。福井在住者が自県に持つイメージの順位も全体回答と同様であるが、回答率は他エリアの在住者の割合と開きがある。特に、「温泉」「自然」で首都圏との差が大きく、PRの余地がありそうだ(図6)。また、「特にイメージはない」の回答も全体で2割あり、特に首都圏で31%と高い。
3. 金沢開業による石川・富山在住者の意識の変化
今回のアンケート調査では、石川及び富山在住者に対し、2015年の北陸新幹線金沢開業(以下、金沢開業)前後の意識の変化についても尋ねた。
(1)自身の生活の変化
全体で6割程度が、何らかの変化があったと回答している。具体的な変化について項目ごとに尋ねたところ、両県ともに「観光で首都圏に行く機会が増えた」が最も高かった。また、県内観光について尋ねると、富山在住者の「観光で、富山に行く機会が増えた」では41%、石川在住者の「観光で、石川に行く機会が増えた」では44%が「(まあ)当てはまる」と回答し、他の項目と比較して相対的に高い結果となった。新幹線開業を契機に、まちに賑わいが生まれる、観光スポットが増える/見直される、といった二次効果がもたらされ、自県の観光(マイクロツーリズム)を促したともいえる(図7)。
(2)地域に対するイメージの変化
続いて、自分の住んでいる地域に対するイメージの変化について尋ねたところ、「(少し)良いほうに変わった」との回答が、富山で50%、石川で57%と5割台となった。
具体的には、「観光客が増えた」「テレビや雑誌などで取り上げられる回数が増えた」「飲食店や商業施設が増えた」といった項目で変化を感じた割合が高く、自分の地域が他地域から注目され、人が集まる地域になったと感じる人が多い。
加えて、「まちの公共交通の魅力が向上した」「駅前開発やまちづくりが進んだ」との回答も多い。駅整備に関しては、金沢駅の「鼓門(つづみもん)」は地域の象徴的なアイコンとなり、富山駅は南北接続が完了し、交通の結節点としての機能がさらに高まった。また、観光列車や、色とりどりのライトレールなど、新しい車両がまちを走る姿は人々を惹きつけた。さらに、シェアサイクルの仕組みも浸透してきている。金沢開業を契機とした交通まちづくりは、利便性だけでなく、地域への誇りや愛着(シビックプライド)をもたらすことが示された(図8)。
4. アンケート結果を踏まえて:目指すべき方向性と取り組むべき課題
① 首都圏への発信強化
アンケートでは、「敦賀開業を知らない」との回答が多かったのは首都圏在住者であり、首都圏での認知度はまだ低い。一方、開業後の新幹線に「乗ってみたい」などの期待もうかがえる。
また、福井のイメージについて、「自然」や「温泉」、「食・酒」と回答した割合は、福井在住者と首都圏在住者との間で回答率に開きがあるほか、「具体的なイメージはない」との回答も首都圏在住者で高く、発信しきれていない観光資源もあると思われる。首都圏在住者が求める情報や伝えきれていない福井の魅力を、的確に、さらに強力に発信していくことが望まれる。
② 福井県内の意識醸成
福井在住者の回答をみると、敦賀開業への関心や期待はあるものの、自身の生活への影響を具体的にイメージするには至っていないことがうかがえる。金沢開業(2015年)前の石川や富山での取組みを振り返ると、行政が旗振り役となり、観光事業者だけでなく市民レベルで、あらゆる年齢層に対し、観光客を受け入れるための対話・講座・研修の機会を設け、地域一体となって新幹線開業後の姿をイメージすることで、少しずつ意識が醸成されていった。福井においても同様に、開業後の地域の姿や自分の役割を想像することで、徐々に地域への誇りや愛着(シビックプライド)が浸透していくと思われる。加えて、こうした意識の高まりが、首都圏に向けた発信力強化に繋がることも期待される。
③ 北陸地域内の需要喚起の余地
富山在住者では、「敦賀開業をきっかけに福井への往訪回数が(少し)増える」や、「開業後に、観光で福井に行きやすくなる」との回答率が石川在住者に比して高い結果となった。敦賀開業に対する富山在住者の期待がうかがえ、福井にとっては新しいマーケットとして富山を位置付けることができそうだ。性別や年代による傾向の差もみられ、特色を捉えた観光商品設計が望まれる。新幹線で北陸三県が繋がることにより、北陸域内の交流促進の高まりが実現されよう。
④ 金沢開業による住民意識の変化から示唆される、敦賀開業を契機としたまちづくり
金沢開業を経験した石川・富山在住者の意識をみると、自分のまちが他地域から注目され、人が集まる地域になったことを具体的変化として挙げる人が多かった。加えて、新幹線を契機として「駅前開発やまちづくり整備が進んだ」「魅力ある公共交通が増えた」と感じる人も多く、自分の住むまちが視覚的に変化していく姿が、住民の地域に対する満足度を高めているようだ。敦賀開業に向けても、首都圏など域外交流の利便性を高める手段としてだけでなく、開業を契機としたまちづくりを進め、「地域住民にとっての新幹線効果」に繋げる視点が重要である。
5. 敦賀開業を最大限活用するために:福井駅の役割
福井駅は、JRや鉄道各社、バスなど主要交通機関が集まる地域一の交通結節点である。敦賀開業後はさらに人や情報が集まり、地域の発信起点の場にもなる。開業効果を最大限もたらすためには、地域住民が付加価値創出の基盤となる正の循環を生み出す「ハブ拠点」となる必要があり、そのためには、地域住民が「自分たちのまち」と感じられる場としての役割も重要となる。金沢駅の鼓門や富山駅のライトレール乗入れのように、シビックプライドにも繋がるランドマーク性を、福井駅に重ね合わせていくことが求められる。
新幹線が運ぶ新たな人流・ナレッジと、迎え入れる地域とが、福井駅をハブに各地で交わることにより、福井全域に地域価値向上をもたらす。その効果を最大化するため、①福井が地域外からの刺激を受け、地域自体が変わることで外部への関わりをより可能とすること、②北陸地域内のハブとなる3駅(福井駅、金沢駅、富山駅)が連携していくことが重要であろう。
6. 最後に
アンケート結果でも、敦賀開業後の北陸新幹線に「乗ってみたい」との意向は居住地を問わず高く、敦賀開業に対する期待は高い。①まだ魅力を伝えきれていない首都圏への発信、②福井県内での意識醸成、③富山を中心とした北陸地域内の需要喚起、④地域住民の満足度を高めるまちづくり を進めることにより、人々の期待を、実際の誘客と持続的な地域価値向上に繋げていきたい。