『日経研月報』特集より
四国が目指す将来像
2022年6月号
本年2月、多くの人々の予想や期待を裏切る形で、ロシアが隣国ウクライナに軍事侵攻を開始しました。当初は、短期間で終結するのではないかとの予測もありましたが、この原稿を書いている時点においても、ロシアによる武力攻撃が続き、多数の民間人を含む尊い人命が失われています。今回の紛争の根源には、国家運営を巡る思想の違いが横たわっており、収束への途を見出すのは容易ではないと思われますが、対立がさらに拡大、深刻化することなく、一刻も早く鎮静の方向に向かうことを願うばかりです。
かつて「戦争を知らない子供たち」という唄が流行しました。先の大戦終結から80年近くを経て、我が国国民の大半をこの「子供たち」が占めるようになりました。幸いにも国際紛争に直接関わることなく平和を享受してきた私たちには、第三次世界大戦など空想の世界のことでしかありませんでした。近年世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスによる疫病流行といい、歴史で学んだ災厄は現実のものとしてごく身近にあること、そして歴史は生きているということを思い知らされているところです。
そうした激動する歴史の振幅期にあって、私たちはより身近で深刻なテーマを忘れてしまいがちになります。それは静かに、そして徐々に勢いを増しながら押し寄せてくる人口減少・高齢化の波であり、私たち四国地域は、この課題の先進地域と言われています。四国の人口は、1985年の423万人をピークに減少に転じ、現時点で約370万人、これからの30年でさらに100万人も減るといった予測がなされています。
そうした危機意識の下、四国経済連合会では、本年4月に「四国が目指す将来像~四国の未来創生に向けた問いかけとして~」を取りまとめ公表しました。これは、四国に住んでいる方、四国を離れ都会で活躍されている四国出身者の方などと一緒になり、四国の将来を考え、この四国を「夢ある島」に創り上げていくために、力を合わせて活動していくきっかけづくりになればとの想いを込めて策定したものであります。
これまでも地方創生と銘打ってさまざまな施策が講じられてはいるものの、私見にはなりますが、人口増を背景とした昭和時代の成功体験や、財源難を抱える国や自治体など「お上への依存心」を払拭できないままでの取組みになっているような気がしています。そうした問題意識を出発点として、今回の提言にあたっては、現実を直視した将来世代に資する取組みを目指すとともに、自助・共助の活動をベースにしたうえで公助による効果的な施策支援をお願いしていく、といった視点を基本的な考え方に据えました。
ただ、四経連単独でこうした自立的な活動を進めていくことは困難であり、私たちの考え方に賛同いただける方に一人でも多く参画してもらい、活動の輪を拡げていくことを念頭に置き、いくつかの工夫を試みました。
一つは、提言の取りまとめに先立ち、他の経済団体の方々との意見交換のほか、域内のさまざまな分野で活躍している若手実業家等のもとに足を運び、膝詰めで現場の生の声を伺いました。そうしたご意見を反映しつつ、地域創生分野でのご経験が豊富な日本経済研究所の鍋山専務理事のご指導を頂戴しながら、手作りでの作り込みを行いました。
もう一つは、「どこへ向かっていこうとするのか」の認識共有を図るための「共通言語」として、レポートのタイトルでもある「四国が目指す将来像」を提示することです。この将来像に関してはいろいろなアイディアがありましたが、最終的に「適度なサイズ感のサステナブルな島」とし、「課題先進地域から転じて、次代の日本の有り様を先取りするモデル地域を目指す」と付記しました。この将来像に託した想いについては、詳しくは提言レポートをご参照いただければ幸いです。
少し付言しますと、我が国は、明治維新を経て「和魂洋才」の精神の下、西洋の制度や文化をバランスよく採り入れてきましたが、先の大戦以降、徐々にこうした精神性が薄れ、ここ最近に至っては我が国の国情を顧みない欧米のやり方を鵜呑みにすることばかりに終始しているように思えます。国内に目を転じると、四国のみならず地方はどこも「ミニ東京」を目指すといった類似の現象が起こっています。
このような国づくり、地域づくりはサステナブルではありません。人口減少社会への移行といった歴史的な変革期にあって、今一度足元にしっかり視線を落とし、これからの日本、そしておらが街はどうあるべきなのかしっかりと考え直してみよう、そうしたメッセージとしての問いかけとさせていただきました。
四国には、私たちが気づいていない「宝」がたくさん埋もれていると確信しています。このレポートがその「宝」に辿り着ける道を探索するきっかけとなり、その活動を続けるなかで修正すべきものがあれば修正する、「小さな成果」を積み重ねる、そうすることで、一歩でも「宝」に近づいていければと願っています。
(参考) 「四国が目指す将来像」:https://yonkeiren.jp