東海圏の地方観光地の魅力を海外へ~再訪を希望するインバウンド観光客の特徴とは~

2023年4-5月号

松田 華保子 (まつだ かほこ)

株式会社日本政策投資銀行東海支店企画調査課 副調査役

1. 本稿の概要

株式会社日本政策投資銀行(以下、DBJ)地域調査部および公益財団法人日本交通公社(以下、JTBF)は、共同で「DBJ・JTBFアジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査2022年度版」(以下、同調査)を公表した。同調査は、DBJ地域調査部が2012年より継続的にアジア・欧米豪12カ国地域(欧米豪は2016年より調査対象に追加)の海外旅行経験者を対象に、インターネットによるアンケート調査を実施し、2015年からはJTBFと共同で調査を行い、以降、毎年調査および調査結果のリリースを行っているものである。DBJ東海支店は、同調査のデータより東海地方訪問希望者に関するデータを抽出・分析し、2023年3月に東海地方版のレポートを公表した。本稿はその中から、東海地方内において、都市部から離れた場所に立地する地方の観光地(同調査では「飛騨/高山」、「伊勢志摩/伊賀」、「紀伊半島/高野山/熊野古道」の3観光地が調査対象。以下、東海圏地方観光地)への再訪を希望するインバウンド観光客に注目し、その特徴を分析したものである。


なお、本稿における東海地方は、愛知県、岐阜県、静岡県、三重県を指す。調査対象となっている東海地方の観光地・地名は、「名古屋」、「飛騨/高山」、「富士山」、「伊勢志摩/伊賀」、「紀伊半島/高野山/熊野古道」、「中部/東海」の6つである。また、東海地方版レポートでは、全国63か所の観光地・地名を、大都市、地方観光地、広域に分類し(富士山のみ広域の観光周遊ルートであるゴールデンルートに分類)、集計・分析を行った。

2. 東海地方への訪問希望者の特徴と地方観光地への関心

インバウンドにおける東海圏地方観光地への再訪希望者の特徴を分析するのに先立ち、まずは東海地方への訪問希望者の特徴を分析する。以下では、東海地方版レポートで分析した東海地方への訪問希望者の特徴の中から、本稿の分析に有益であると思われる3点を紹介する。

2. 1. 東海地方は、知ってもらえれば行きたくなり、一度来てもらえればまた行きたくなるエリア

知っている観光地への訪問を希望する割合(訪問希望率)は、「富士山」58.0%、「名古屋」40.3%、「飛騨/高山」38.6%、「紀伊半島/高野山/熊野古道」36.2%と4観光地で高い結果となった(大都市中央値37.8%、大都市以外中央値30.4%)。東海地方には、知ってもらえることができれば行きたくなる観光地が多く立地しているといえる。
また、一度訪れたことのある観光地への再訪を希望する割合(表2のリピート往訪希望率)も、広域名の「中部/東海」を除く5観光地のすべてが、全国63観光地の中央値を超える結果となった(6位「富士山」65.3%、18位「伊勢志摩/伊賀」58.1%、24位「飛騨/高山」56.5%、25位「紀伊半島/高野山/熊野古道」56.1%、31位「名古屋」54.6%、中央値は54.5%)。東海地方には一度来てもらえればまた行きたくなる観光地が多く立地しているのである。
以上より、東海地方には知ってもらえれば行きたくなり、一度来てもらえればまた行きたくなる観光地が多く立地しているといえ、それらをうまく組み合わせてエリア内でインバウンド観光客への訴求力を高める取組みが期待される。

2. 2. 目の肥えた訪日リピーターが訪問を希望するエリア

各観光地への訪問希望者を抽出し、それぞれ訪日旅行経験回数を集計したところ、「飛騨/高山」、「伊勢志摩/伊賀」は訪問希望者の7割強が2回以上の訪日旅行経験者(以下、訪日リピーター)であり、特に訪日回数6回以上の経験者(以下、コアリピーター)が4割近くを占めている。「名古屋」、「紀伊半島/高野山/熊野古道」への訪問希望者も、訪日リピーターが5割を超える。訪日旅行希望者全体では、訪日リピーターが3割、コアリピーターが1割であり、東海地方は、日本に旅行慣れし、目の肥えた訪日リピーターが訪問を希望するエリアといえる(図1)。

2. 3. 訪日旅行経験のある東海地方訪問希望者は地方観光旅行への関心が高い

訪日旅行経験者に対し日本の地方観光地への訪問意向を尋ねたところ、「ぜひ旅行したい」と回答した割合は経験者全体で54.5%であるのに対し、訪日旅行経験のある「飛騨/高山」、「伊勢志摩/伊賀」、「紀伊半島/高野山/熊野古道」訪問希望者は、7割前後に達する結果となった。とりわけ「名古屋」訪問希望者も2/3近くの66.3%が地方旅行を強く希望していることから、大都市の名古屋と周辺の地方エリアを組み合わせた広域旅行は、インバウンド観光客に対し魅力ある旅行プランといえる(図2)。

3. 東海圏地方観光地への再訪希望者の特徴

前章の通り東海地方は、知ってもらえれば行きたくなり、一度来てもらえればまた行きたくなるような、目の肥えた訪日リピーターをも魅了する観光地が多く立地するエリアであるといえる。また、東海地方への訪問希望者は、日本の地方観光地への関心が高いことも分かった。
以上の分析結果を踏まえ、本章では、東海圏地方観光地(「飛騨/高山」、伊勢志摩/伊賀」、「紀伊半島/高野山/熊野古道」)への再訪を希望するインバウンド観光客を抽出し、その特徴を整理した。東海圏地方観光地への再訪希望者の特徴を分析することで、当地のリピーターを一層増やしていくためのヒントを探ってみたい。

3. 1. 東海圏地方観光地への再訪希望者は、相対的に所得の高い層が多い

同調査では、調査対象12カ国地域の回答者を国・地域毎に世帯年収順に3分割し、低収入層・中収入層・高収入層として分類しているが、本稿では、その中から訪日再訪希望者および東海圏地方観光地への再訪希望者を抽出し分布を調べた(図3)。

訪日再訪希望者のうち、高所得層は44.1%、中間層が32.8%であるのに対し、「飛騨/高山」再訪希望者は高所得層58.1%、「紀伊半島/高野山/熊野古道」再訪希望者は同56.3%である。これら2地域では高所得者層の割合が高い。一方、「伊勢志摩/伊賀」再訪希望者は、高所得層は44.0%と訪日再訪希望者並みだが、中間層が40.0%と相対的に高くなっている。以上より、東海圏地方観光地への再訪希望者は、回答者全体の中でも相対的に所得の高い層が多いといえる。

3. 2. 自然・文化的な過ごし方と都会的な過ごし方の双方に関心

日本での旅行で体験したいことを尋ねたところ、訪日再訪希望者は、自然や風景、桜・雪景色・紅葉の鑑賞、温泉、伝統的日本料理、史跡や歴史的建造物、世界遺産、日本庭園への関心が高い。訪日再訪希望者は、日本の自然・文化に高い関心を有しているといえる。
一方、東海圏地方観光地への再訪希望者についても、上位項目は概ね日本の自然・文化が上位となったが、訪日再訪希望者と比べるといずれの項目も数ポイントから20ポイント以上高い結果となった。東海圏地方観光地への再訪希望者は、とりわけ日本の自然・文化に高い関心を有していることが分かる。
また、訪日再訪希望者では関心が低かった繁華街の街歩き、各種ショッピング(食品・ファッション・化粧品・電化製品)など、日本の都会的な過ごし方についても、東海圏地方観光地への再訪希望者は高い関心を示す結果となった。例えば日本の「繁華街の街歩き」に関心を持つ割合は、「飛騨/高山」、「伊勢志摩/伊賀」再訪希望者では5割を超え、「洋服やファッション雑貨のショッピング」に関心を持つ割合は、「紀伊半島/高野山/熊野古道」再訪希望者で5割を超える結果となった。
以上より、東海圏地方観光地への再訪希望者は、日本での旅行において、自然・文化的な過ごし方のみならず、都会的な過ごし方にも強い関心を有しているといえる。

4. 東海地方インバウンド観光市場の成長期待

観光庁「宿泊旅行統計」によると、東海地方の外国人延べ宿泊者は、2011年の127万人泊から2019年には818万人泊(約6倍)と大きく成長してきたが、全国に占める東海4県(愛知、岐阜、三重、静岡)の割合は7.1%(2019年時点)と決して高いとはいえない。また、観光庁「訪日外国人消費動向調査」によると、訪日外国人旅行消費額も東海地方は2,447億円(全国シェア5.2%)にとどまり、1兆2,066億円(同25.5%)の関西(大阪、京都、奈良、兵庫)に大きく差を広げられている(2019年時点)。
一方で前述の通り、東海地方は、知ってもらえれば行きたくなり、一度来てもらえればまた行きたくなるような、目の肥えた訪日リピーターをも魅了する特徴を持つエリアといえる。また、東海地方訪問希望者は地方観光地への関心が高い旅行者が多いこと、東海圏地方観光地への再訪希望者は相対的に所得が高い層が多く、自然・文化のみならず都会的な過ごし方にも関心が高いことが分かった。
調査の結果から、東海地方の旅行観光市場を成長させていくためには、相対的に所得が高い地方観光地のリピーターを増やしていくことがひとつのカギになると考えられるのではないか。ここでは、東海圏地方観光地への再訪希望者は、地域ごとに多少の差異はあるものの、自然・文化的な過ごし方のみならず、繁華街の街歩きや買い物(電化製品・化粧品等)等都会的な過ごし方にも強い関心があることに注目したい。
東海地方は、大都市名古屋や、中部国際空港・静岡空港などインバウンドの玄関口にあたる空港を有している。東海地方のエリア内に存在する大都市と地方観光地が各種交通で結ばれており、都市型観光と、地方型観光の双方を、コンパクトに周遊しながら楽しんでもらうことを訴求できるエリアといえるだろう。玄関口となる空港と地方観光地間の移動手段をさらに整備するなど、都市部と地方観光地の連携をより一層発展させていくことで、東海地方全体のリピーターを増やしていくことにつながるのではないだろうか。また、東海圏地方観光地への再訪希望者は、相対的に所得が高く、来訪に伴う消費により、高い地域経済効果が期待できる。地方観光地を呼び水に東海圏一体となってリピーター層を呼び込んでいくことで、都市の魅力と地方の魅力の相乗効果により、東海地方全体のインバウンド観光市場の成長が期待されるのではないかと考える。

本稿の執筆にあたり、東海地方の地方公共団体をはじめ、多くの方にご教示いただきました。この場をお借りし改めて御礼申し上げます。

著者プロフィール

松田 華保子 (まつだ かほこ)

株式会社日本政策投資銀行東海支店企画調査課 副調査役

株式会社日本政策投資銀行東海支店企画調査課 副調査役
岐阜県多治見市出身。2014年慶應義塾大学環境情報学部卒、同年日本政策投資銀行入行。企業金融第1部技術事業化支援センター、一般財団法人日本経済研究所(出向)、人事部を経て、2020年より現職。