編集後記 2023年8-9月号
2023年8-9月号
日本の経済成長が30年に亘って低迷し、その原因が日本の「生産性」の低迷であることは、皆わかってはいるものの、それがなぜなのか、また、今後どうすればいいのかについては、論者によってさまざまな主張がなされています。また、生産性が高い・低いという言葉は日常の会話でも出てくることがありますが、その意味は、使う人や使う場面によって異なっていて、本来の意味と違っている場合すらあります。そこで一度、原点に戻って、経済学で言う「生産性」の定義を正確に理解するとともに、なぜ日本では長期にわたって生産性が低迷、また地域間格差が拡大してきたのかを整理するため、今回の特集を組みました。この分野で日本の学術研究をリードされ、また一般向けの『生産性とは何か』(ちくま新書)の著者でもある宮川努氏(学習院大学)の日本の生産性に関する幅広い解説(講演録)のほか、早川英男氏(東京財団)の巻頭言では日本企業の行動変化の兆しとマクロ・産業面から見た懸念を、宮川大介氏(早稲田大学)には2000年代以降の労働生産性を要因分解しての解説を、徳井丞次氏(信州大学)には生産性の地域間格差が研究開発集約度に関連していることを、淺羽茂氏(早稲田大学)には企業による差別的優位性の確立こそ重要であることなどを、篠﨑彰彦氏(九州大学)には世界と日本のデジタル投資を巡るこれまでの状況と今後の日本にとってのチャンスを、それぞれご執筆いただきました。また、特集以外にも、AIや5Gなど各国にとって戦略的に重要な技術についての米国の政策や、社会的共通資本の制度資本の中でも特に重要な医療介護制度について持続可能性を検討する新シリーズなど、新機軸の記事も掲載しましたので、どうぞご注目ください。