鹿児島の銭湯・サウナ文化
2023年6-7月号
活火山が多い鹿児島には全国的に有名な指宿や霧島など、多くの温泉地がある。私が住む鹿児島市内にも270以上の源泉があるため、市内の銭湯はほとんどが天然温泉である。利用料は420円とお手頃、しかも多くの銭湯にはサウナがある。
昨今のサウナブームにより、都会の人気サウナ店では、時間帯によって入店自体に人数制限があったり、サウナ室に入るところで渋滞が発生したり、また人数が多いせいかあちこちで小さなトラブルがあったりもする。リラックスして気持ちを切り替えたいと思って行ったサウナで、逆にストレスを感じてしまうこともある。
そんなサウナを鹿児島では銭湯で気軽に楽しめる。施設によるが、混雑することは稀である。温泉・サウナ好きの私には、この上ない環境である。
しかしながら、銭湯を取り巻く環境は非常に厳しい。後継者不足や燃料費高騰などにより、事業継続が難しくなっているとの声も聞かれる。厚生労働省によれば、生活様式の変化による利用者の減少なども相まって、銭湯等(共同の公共浴場を含む)の減少は続いている。そして、足元では新型コロナの感染拡大により感染を恐れて銭湯から足が遠のいた人も多く、減少に拍車がかかっている。
銭湯の社会的役割は何なのか。公衆浴場は、公衆衛生上の入浴機会を提供するだけでなく、地域交流や高齢者の健康促進・見守りなどに加え、地域の歴史・文化を体感する場でもある。
実際に地元で銭湯に足を運んでみると、新型コロナの感染防止対策として“黙浴”が推奨されるなかであっても、店員さんや常連さん同士、楽しくコミュニケーションをしている様子を目にすることが多い。全く面識のない私にも、気さくに声をかけてくれる方も少なくない。裸の付き合いで気持ちが緩むせいか、他愛もない話で盛り上がり、地元のおすすめ情報などを教えてもらうこともある。時々、常連さんのローカルルールに戸惑うこともあるけれど、それもまた地域ならではの良さでもある。
地域では、地元の方々にとっては当たり前と思っていることが、他の地域の人からすると、とても大きな価値があったりする。
私が鹿児島に赴任して数か月が経つが、毎日望む桜島からは常に噴煙があがっており、風向きによっては市内にも灰が舞う。これも、今では私にとって当たり前の日常になっているが、赴任当初は戸惑うことも多々あった。鹿児島市街地から桜島までは錦江湾を挟んで約4㎞、活火山と都市がこれだけ隣接し、日常生活の中で地球の息吹を感じることができるこの環境は、世界でもめずらしい。
新型コロナによってさまざまな変化が起こった。中でも、価値観は人それぞれであること、そしてその価値観を受け入れることが当たり前になりつつある。価値あるものを見出し、磨き、そして魅せることで、本当にその価値がわかる人に届けること、さらにはその価値に見合った対価を得ることが、これからの地域振興にとって重要な視点となるだろう。
鹿児島には、自然、食、歴史・文化など、地域ならではの資源が豊富にある。銭湯・サウナ文化もそのひとつである。これらの魅力がその価値を理解してくれる人に知られ、一人でも多くの人と繋がり、そして実際に鹿児島に足を運んでくれる人が増えれば、まだ地元では気づいていない価値あるものを見出してくれるのではないか。地域振興の好循環が生まれることで、これからも地域に根付いた鹿児島の銭湯・サウナ文化が受け継がれていくことを切に願う。