『日経研月報』特集より

道の駅と地域創生 ~宮城県の状況~

2024年6-7月号

佐藤 渉 (さとう わたる)

七十七リサーチ&コンサルティング株式会社 調査研究部 部長

1. はじめに

「鉄道に駅があるように、道路にも駅があってもいいのでは」という声から、その後の実証実験等を経て、「道の駅」は1993年にスタートしました。2024年2月16日時点では全国各地に1,213駅が登録されています。地域内外の住民にとっては産地の新鮮な野菜や果物などを購入できる買い物やレクリエーションの場、さらに近場へのドライブルートとして、地域の生産者や事業者にとっては6次化や新たな事業の起点として、設置した市町村にとっては交流人口の増加等により地域創生への取組みを推進するための場として定着してきました。
道の駅の目的は、第1ステージでは「通過する道路利用者へのサービスの提供の場」、2013年からの第2ステージでは「道の駅自体が目的地」とされましたが、2020年からは第3ステージとして「ニューノーマル対応」「防災拠点化」「地域センター化」へ向けた取組方針が設定されるなど、時代の変遷に合わせて新たな役割が期待されてきました。
そこで今回は、地域創生を考えるにあたり、弊社の営業基盤である宮城県の「道の駅」の状況を概観し、「道の駅」の今後について考察します。

2. 宮城県内の道の駅の状況

(1)宮城県内の分布状況

2024年2月現在、宮城県には図1に示す18の道の駅があります。最も古いのは道の駅の制度がスタートした1993年に登録された「道の駅七ヶ宿」です。以降、1990年代に7駅、2000年以降に10駅の道の駅が登録されました。道の駅が登録された市町村別にみますと、登米市に5駅、大崎市に3駅、石巻市に2駅、栗原市、大郷町、気仙沼市、村田町、七ヶ宿町、角田市、女川町、南三陸町にそれぞれ1駅となります。分布をみますと、18駅のうち15駅の登録が県北地域に集中しています。中でも登米市や大崎市などには2005年前後の「平成の大合併」の影響から合併前の町にあった複数の道の駅が合併後の市に残る形となっています。

2021年には石巻市、女川町、南三陸町といった沿岸部の市町に道の駅が設置され、気仙沼市の大谷海岸と合わせて4つの道の駅が沿岸部に立地しています。なお、宮城県の県南地域の沿岸部においては、仙台市の蒲生地区から名取川沿いにかけての海浜エリア開発、名取市閖上地区の商業施設である「かわまちてらす閖上」、山元町の「いちごの郷」といった道の駅以外の形態による地域活性化への取組みが元々実施されてきました。
さらに今後は、2024年に東松島市が三陸道の矢本PA付近、2027年に白石市が東北自動車道スマートインターチェンジ付近にそれぞれ道の駅を開業する予定となっています。

(2)全国の分布状況

全国の道の駅数は先述の通り1,213駅で、47都道府県別でみると図2の通りですが、宮城県の道の駅数は18駅で47都道府県中30位となっています。

1駅毎の道路実延長(表1)によって都道府県別に道の駅の集中度合いをみますと、和歌山県が1駅あたり385.6㎞と最も集中度が高く、東京都が同24,423.7㎞と最も集中度が低くなっています。地域別にみると東北地域に道の駅は174駅あり、関東地域に次いで多い地域ですが、宮城県は東北地域の中では、最も長く道路を走らないと道の駅に辿り着かない県となっています。

また、宮城県など県庁所在地への人口の集中度が高い都道府県には、道の駅数が少ない傾向もみられます。図3は、縦軸に県庁所在地への人口集中度、横軸に道の駅数をプロットしたものですが、これをみると、右側の象限に含まれ、県庁所在地の人口集中度が低い岐阜県(56駅)や長野県(54駅)、東北地域の中でも岩手県(36駅)、福島県(35駅)、秋田県(34駅)、青森県(28駅)には多くの道の駅があり、左側の県庁所在地への人口集中度の高い都道府県が含まれる象限には、京都府(18駅)や宮城県(18駅)などの道の駅数の少ない都道府県がプロットされます。

この理由として中心部への集中度の高い都道府県では、中心部以外の活性化の度合いが相対的に弱まっていることが考えられます。現在、全国単位では東京への人口一極集中の弊害が指摘されていますが、その他の道府県内においても地域の均衡な発展が求められていることを考えますと、特に図3の左上の象限に含まれる宮城県などの自治体においてこそ、道の駅などを活用した地域創生への取組みが求められているものと考えます。

(3)道の駅別の入込数の増減

宮城県内に立地する道の駅の入込数はコロナ禍前の2019年に8,372千人に達しましたが、その後の減少で、2021年には6,863千人に落ち込みました。
また、表2が示す通り、入込数が把握可能な12駅について2011年から2021年までの入込数の増減をみると、増加が4駅、減少が8駅となっています。特に5つの道の駅を抱える登米市においては、図4が示す通り、「林林館」や「みなみかた」の入込数が、マイナス50%超となる一方で、後発の「三滝堂」のみが入込数を増やしました。「三滝堂」には、三陸自動車道からも入れるほか、電源付き車中泊対応スペースを6台設置しているなどの利便性があり、三陸自動車道が2017年から2020年にかけて南三陸から気仙沼へ延伸となったことも入込数の増加に寄与したものと思われます。


登米市以外の道の駅をみますと、図5が示す通り、大崎市の「あ・ら・伊達な道の駅」の入込数が特に多くなっています。同駅は、ロイズチョコレートの商品を販売していることで有名ですが、入込数の多い要因はそれだけではありません。

同駅が設置される前の旧岩出山町は、例えば2000年当時の人口の約3割が65歳以上と高齢化が進行し、併せて1995年から2000年までの5年間で人口が6.5%減少するなど過疎化も進行していました。そうした状況のなか、中学校の廃校跡地の活用について町と住民が交わした議論で、岩出山町は国道47号、108号、457号が通る交通の要所であり「トイレなら車が停まってくれるのではないか」との意見があったことが、この町に道の駅を作るきっかけとなったとのことです。
「あ・ら・伊達な道の駅」の運営は、旧岩出山町が50%出資、残りを1株5万円とする住民株主からの出資で設立された株式会社池月道の駅が行い、農産物直売所の他にもパン工房やそば工房といった地元の女性らが自ら起業したコミュニティビジネスが運営されるなど、徹底した住民参加型であり、かつ女性と高齢者を活用した運営が行われています。同駅は、平成26年に「地域活性化の拠点となる優れた企画があり、今後の重点支援で効果的な取組みが期待できるもの」として国土交通省から地域創生の核となる「重点」道の駅の指定を受けました。
こうした状況から窺い知ることができるのは、行政からの受動的な形ではなく、行政と住民が丁寧に意見を交換し、まちづくりへの意識を共有したうえで、双方が能動的に運営を行うことが、道の駅の運営を成功させるためには重要であるということです。同駅が行ってきた一連の取組みは、地域創生を考えるうえで示唆に富むものであると考えます。
さて、「道の駅おおさと」も、県内で入込数が増えている道の駅です。同駅は、道の駅が集中する県北地域の南の入り口に位置し、県道9号、県道40号といった全国有数の観光地である松島や仙台市のベッドタウンである利府町につながる路線上にあるといった立地上の優位性に加えて、当地の地場産品に固執せず、周辺地域の地場産品も加えた魅力的な商品を豊富に取り揃えた売り場構成が訪れる人々に受け入れられているものと思われます。
図6が示す通り「あ・ら・伊達な道の駅」がある大崎市の道の駅の入込数はコロナ禍で2020年には大幅に減少し、宮城県の道の駅全体の入込数を押し下げました。ただし昨年5月に感染症分類の5類への引き下げ以降では、宮城県内の個人消費は底堅く推移しており、県内の道の駅の入込数は今後、増加に転じると予想されます。

3. 道の駅が抱える課題

現在、道の駅が抱える課題としては設備投資のコスト負担、売上の減少、出荷者の高齢化による商品の減少が挙げられます。
まず、設備投資コストの問題ですが、宮城県の道の駅はその多くが30年余を経過していることから、設備の老朽化に伴う維持・更新や新設投資の負担が今後の課題となることが予想されます。通常、民間企業であれば、設備投資のための調達資金の償還負担を見込んだうえで、身の丈に合った規模の設備投資を行います。しかし、初期投資負担を補助金等によって賄うことの多い道の駅のような公共事業は、収支の算定が甘くなりがちです。設備投資の規模が過大になると、当初予定していなかったコスト負担が生じている可能性があります。
次に、売上の減少です。コロナ禍の影響もあり多くの道の駅で入込数の減少がみられることから、売上高が減少し、さらに光熱費の高騰などで費用負担が増加していることからも収支は厳しい状況にあります。宮城県の公表データによれば、道の駅の運営に携わっている第3セクターの過半数は赤字であり、こうした厳しい状況を裏付ける形となっています。
次に、道の駅にとって頭が痛いのが生産者の高齢化等による地元商品の減少です。今後は生産者の高齢化等によってさらなる減少となることが予想され、販売商品の確保が一層深刻な課題となるものと思われます。

4. 道の駅の今後の方向性

宮城県の道の駅18駅中15駅が県北地域に集中しているのは、冒頭に述べた通りです。確かに、5つの道の駅が競合する登米市の入込数は平均を下回っており、厳しい状況です。しかし一方で、競合する道の駅がほとんどないはずの村田町や七ヶ宿町、栗原市の道の駅であっても入込数は平均以下となっています。
このことから、道の駅の運営の成否にとって、駅の立地が及ぼす影響はさほど大きくないということがいえます。
道の駅には、「休憩機能」「情報発信機能」「地域の連携機能」という3要素がありますが、実際には地域の特産品を売りにした商業施設であり、当初の道路を利用する人が立ち寄る場というよりは、そこで購入できる新鮮な地場産品やそこで味わうことのできるグルメを楽しむための場となっています。
道の駅の制度がスタートして以来、30余年の間に分かってきたことは、道の駅を成功させるためには、①道の駅を運営する地域の強みや弱みなどを分析し、そこでなければ買えない、食べることができない、体験することができないキラーコンテンツを見定めること、②官民双方が地域活性化に向けた意識を共有し、主体的に運営に参加する仕組みを構築することを前提に、リスクシナリオを念頭に置いた厳しい目で事業収支を検討するなどの事前準備が必要であるということです。運営がうまくいっていない道の駅は①や②または全てにおいて検討が不十分であった可能性が高いということです。
ところで、地域経済はよく「漏れバケツ」に例えられますが、地域に注がれた水、すなわちお金をどれだけ外に漏らさずバケツの中で循環させるかということは、地域経済活性化の手段を考えるうえで非常に重要です。
例えば、弊社が以前に産業連関調査を受託した町の事例を挙げると、この町の産業連関表の域外収支、つまりバケツの穴がどこにどれだけの大きさで開いているかを表す項目をみると、最大の黒字が食料品製造業、最大の赤字が商業となっており、住民が買い物をする際は、ほとんど町外のショッピングセンター等に出向く習慣が根付いていました。このような状況を踏まえると、この町に道の駅を設置し、豊かな自然や農産品など魅力的なコンテンツの対外情報の発信を行うとともに、住民に向けたショッピングセンターとしての役割を担わせ町内外の買い物ニーズを満たすプラスアルファの機能を持たせるのも一つの方法です。
これまでの固定観念にとらわれず、地域をゼロベースで見直したうえで、「道の駅」の事業としての成功を目指していくことが、地域創生における道の駅の今後の方向性を検討するに際して忘れてはならないことではないでしょうか。

著者プロフィール

佐藤 渉 (さとう わたる)

七十七リサーチ&コンサルティング株式会社 調査研究部 部長

1965年仙台市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、1988年、株式会社七十七銀行入行、小名浜支店に配属。その後、塩竃支店、本店営業部融資課、旧富士総合研究所出向、調査部調査課副長、県庁支店支店長代理、長町支店次長、審査部企業支援室長、渡波支店長、河原町支店長、総合企画部副部長などを経て2019年9月より調査研究部担当部長として当社へ出向、2020年3月に転籍。2022年6月より現職。中小企業診断士、ITコーディネータ。