『日経研月報』特集より

真の地域創生は、笑顔と感謝を積み重ね「幸せ」を感じる社会の創造

2024年6-7月号

藤川 遼介 (ふじかわ りょうすけ)

株式会社エピテック 代表取締役

1. 地域創生と地域振興の相違点

「地域創生」は、地域と創生という言葉の組み合わせである。そのため、「地域創生」は、都心部・地方部関係なく、一定のエリアにおいて取組みを創造することという意味だと定義できる。また、「地域づくり」、「地域活性」、「地域おこし」の3つの言葉も意味が異なる。「地域づくり」は、自治的政策で、例を挙げると、通信回線整備、道の駅・病院・道路など公共施設の整備、コンパクトシティ構想など、「地域活性」は経済的施策で、6次産業、名産品考案など、「地域おこし」は情緒的施策で、祭、シビックプライド、リビングラボなどである。この3つをまとめて、「地域振興」という。「地域創生」と「地域振興」の違いは、新しく生み出すことと促進することの違いということになる。

2. 多拠点生活を始めたきっかけ

筆者は、学生であった2010年から15年間にわたり、地域創生の研究と実践活動にかかわってきた。活動を始めた当時は、地域おこし協力隊の制度もそれほど世間に浸透していなかった。生まれも育ちも都心部であったため、そこを離れて地方部に活動拠点を持って行くという考え方は、周囲から冷ややかに見られ、変わり者扱いをされていた。しかしながら、学生時代に、家の近所で子どもに挨拶をされ、挨拶を返した時、周囲の保護者に「知り合いではないなら挨拶しないでください。そういう教育を施しています。」と注意されたことがきっかけで、都心部の生活は果たして豊かな生活なのだろうかと疑問を抱くことになった。「子どもが危険な目に合わないため」という保護者の対応は十分承知であるが、「知らない人と挨拶をしてはいけない」という教育は、この国を豊かにする教育なのだろうか。子どもに見せるべき大人の背中とは、気持ちよく挨拶を交わし、子どもの安全を地域全体で見守る社会ではないだろうか。筆者は、このような心に余裕をなくし、疲弊している日々を過ごす生活から脱したいと思い、行動に移すことにした。
社会人になって、2015年に茨城県筑西市にて多拠点生活を始めた。地域活動を通して、意気投合した大家さんの仕事部屋にルームシェアさせていただくことになった。昭和の言葉を借りると下宿・居候である。地域とのかかわり方は、都心部と地方部の選択ではなく、両方の生活を両立させる多拠点生活を選んだ。筑西市での日常生活は、散歩をしていると近所の方だけではなく、登下校の小中高生に挨拶を交わし、顔を上げて笑顔で歩く生活だった。これに対して、都心部で生活をしている人々は、トラブル回避のためにスマートフォンに目を移し、目線を下げた生活を送っていることに気が付いた。金銭的な豊かさと心の豊かさは異なる。幸せな生活を過ごすためには、経済的な自由も大切であるが、心身共に健康かつ豊かなことがとても重要である。

3. ご当地バレーボール大会の誕生秘話

筑西市で生活を始めた頃、地域の魅力を発信し、地域住民からの信頼を得ることを目指した。季節に合わせて多品目の野菜でつくった薬膳カレー会や大鍋会、背負子(運搬具)を背負ってイベントで野菜を売ってみた。このような活動は、支出が多すぎて持続性が見込めない。薬膳カレー会や大鍋会は、食材や備品などを考慮すると1杯1,000円で計算しなければ収支が合わなかった。地元高齢者の「この値段じゃ誰も買わない」という鶴の一声で半額以下に値下げすることになってしまい、赤字部分は自己負担になって厳しい状況に陥った。そのなかで、この状況をいかにして「消費」ではなく「投資」に変えるかと真剣に向き合い、諦めるという判断は全くなかった。これまでの経験を「自分の価値」に変えていくのかと考えた時、諦めて止めるのではなく、学びを得ることを意識した。世の中を見渡すと成功している取組みは、成功するまで続けていたからだといえる。少なくても4年間の下積み、さらに4年間で経験が生き始め、その後の4年間で取組みイメージが浸透すると考えている。そして、全ての企画の中で、支出の少ない企画に着目した。その企画こそが、「泥んこバレーボール大会」である。

「泥んこバレーボール大会」は、最初に備品を揃えてしまえば、数年は支出がそれほどかからない。その大部分を占める会場づくりは、地域の方々の協力を得られれば、コストを抑制できる。会場づくりを地域の方々にお願いして、協力し合うことで、大会運営の当事者を増やすことができた。この経験から学んだことは、企画を実施することは、団結力を高め、信頼を得る近道だということである。さらにこの大会には、老若男女関係なく参加することができる。運営が不馴れでも参加者に審判などの協力をお願いして、みんなでつくる大会という空気を生み出し、多くの笑いを生むことで、かかわった人々の満足度が高い企画になった。
「泥んこバレーボール大会」が盛り上がる背景には、日本が世界に誇る偉大なコメディアン「ザ・ドリフターズ」が培った、体を張るパフォーマンスが日本人の心に根付いているからではなかろうか。さまざまな地域で企画考案のアドバイスを求められた際、筆者は、「ドリフのコントを参考にすると良い」とアドバイスを送っている。昭和の日本を明るくしたコメディアンの知恵は、時代を超えて継承されていくだろう。困った時、行き詰った時こそ、「笑う」ことが大切である。この大会から学んだ企画づくりのポイントは3点ある。
・支出を抑えること
・当事者を増やすこと
・完璧な運営を目指さないこと
現在、「泥んこバレーボール大会」は、泥に限らず地域の特色を活かした会場で行うバレーボール大会・「ご当地バレーボール大会」として、全国各地に連携の輪が広がっている。

https://www.youtube.com/@broup_apitec

4. 連鎖する関係人口の輪

これまでの地域活動によって、年間のべ約300人を超える筑西市外の人々を受け入れ、交流を持った。おそらく、これまでにのべ3,000名を超える人々が筑西市を訪れてくれただろう。ご当地バレーボール大会の参加者がリピーターとして地域のイベントに参加してくれるようになったため、自然な形で地域と関わる人が増えていった。地域体験プログラムを考える際の1番の課題は集客である。5名前後の集客でも難しいだろう。この課題に対し、効率よく対応していくためには、筆者の経験からリピーターが参加しやすい企画を核にシーズンごとに情報を整理することだといえる。お互いのフィールド(地域)を行き来することで、さらに関係人口が拡大しているなど、興味深い波及効果もみられる。このような状況にも関わらず、地域で人を受け入れるマネージャーへの評価がまだ低いのが現状である。
活動の成果を評価してくださる方が増えたことから、筆者の仕事は、2019年では、週替わりで滞在する地域が変わるようになった。1週目は関東地方、2週目は東北地方、3週目は九州地方、4週目は関西地方、移動の合間で関東都心部といった生活になっていた。滞在先は、仕事でご一緒した方の拠点やホテルなどさまざまである。パソコン・携帯電話と簡単な衣類さえあれば、どこでも仕事ができるというスタイルを確立した。移動が当たり前の生活を過ごしていると、本当に必要なものはかなり限られていることに気づく。人は、思い出や物によって行動に制限をかけられているとしみじみ感じたことを覚えている。

5. 経験から見出したこと

地域活動を積み重ねていくうちに、その活動を実践するにあたって重要なフレームワークがあるということに気づいた。自らの経験を通して、ヒト・モノ・コト、それぞれのフレームワークで3つの整理手法を図2に示す。
・ヒトの整理手法「日本版コレクティブ・インパクト(注1)」
・モノの整理手法「ローカルクエスト思考」
・コトの整理手法「地域デザイン7Step」
これらをまとめて、「ローカルプロジェクトフレームワーク」と題して論文掲載や学会報告を行っている。このようなアカデミックなアウトプットを残すことで、お世話になった地域の知名度を高めていきたい。

https://apitec.jp/

6. これからの社会

「地域創生」は、2011年の東日本大震災を受けての震災復興、2019年からのCOVID-19、そして2024年1月1日の能登半島地震、4月17日の愛媛地震など、天災・疫災などの経験を乗り越えるタイミングでこそ、考えられることが多い。
この10年間で注目を集めた政策は、大きく2つの時代に分けられる。前半は、「地域おこし協力隊」という制度に象徴される移住・定住を促進する政策である。日本の消滅可能性都市が約900にも上るという通称・増田レポートの報告を受け、国が自治体に指針を示して、数字上で進めて来た政策の1つである。この政策が進んだ時代は、「地方創生1.0」である。
後半は、「ふるさと納税」という制度に象徴される関係人口を促進する政策である。自治体が主体となり、サテライトオフィスなどを誘致し、コミュニティを築くローカルハブの構築に力が注がれていた。このローカルハブの取組みとふるさと納税などの政策がマッチし、話題となる自治体が急激に増えた時代である。このような背景に加え、IoT技術の急速な発展や5.0G回線が浸透したことが追い風となり、時間や空間を超えて、欲しい情報を効率的に手に入れやすくなったことが挙げられる。この時代が「地方創生2.0」である。このような政策の浸透によって、「都心部を離れて、地方部でスローライフを送りたい」という人が増えたのではないだろうか。
これからの時代はどのようになっていくのだろうか。移住・定住促進や関係人口の政策の先に必要なことは、グローバル目線の産業を地域に生み出すことだと考えている。自治体主導の政策ではなく、岩手県紫波町の取組みのように「公民連携」の政策を広めていく必要がある。AI、自動制御機能、仮想空間、栽培技術など最先端のモノづくり技術を持った民間企業と自治体が連携し、「公民連携」で地域を盛り上げる「地方創生3.0」と呼べる考え方が重要になる。多くの情報を得やすくなった環境から、自分が携わりたい生活環境を選ぶためには、公私それぞれの面で突き抜けた特長を持った地域こそが選ばれる時代になる。

7. サーキュラーエコノミーという考え方

「SDGs」が社会に浸透していくなか、これからの時代では、原材料から製品が生まれることを前提に「製品→利用→リサイクル」という循環型経済を生み出す、「サーキュラーエコノミー」という考え方が注目されている。現在、世界中で、さまざまな事例でアップサイクル(注2)するモデルが生まれているものの、日本においては需要の高いアップサイクルを生み出すという観点で遅れがでていることは否めない。サーキュラーエコノミーの浸透こそが、地域に新たな産業を生み出し、関係人口を活性させる起爆剤になると考えている。
筆者が携わっている事例として、「SeaFect」及び「SeaFect水溶液」という商品が挙げられる。この商品は、身体に優しい除菌・抗菌・消臭・油汚れに対応した商品にニーズがあることに着目し、これらのニーズに応えるために生まれている。原料は、主にオホーツク海近郊で産業廃棄物として課題となっているホタテ貝の貝殻である。ホタテ貝の貝殻を高度独自技術にて加工して生み出した商品が「SeaFect」である。この商品の優れた点は、水に溶けにくい水酸化カルシウムを世界基準の3倍で溶解させることに成功した点、水と混ざっても発熱しない点、一般的な水と同等レベルの皮膚や眼の角膜などへの安全性が認められている点、製造に伴いスーパーオキシドラジカルが強化される点、水溶液にする際の水づくりにこだわっている点である。このように他の類似商品と比較した際の優位的な特長を見出し、国際特許申請を行う程、突き抜けた商品となっている。活用方法は、もともと想定したニーズに留まらず、商品の特長を活かして、バイオスティミュラント(植物や土壌により良い生理状態をもたらすさまざまな物質や微生物)としての農林水産分野、畜産分野、ペット分野、美容分野、サプリメントや漢方分野、アパレル分野など幅広い分野から注目され、世界から問い合わせが増えている。この事例の優れた点は、地域の課題であった産業廃棄物をニーズの高い商品へとアップサイクルし、商品の2次利用として地域産業への貢献に留まらず、世界から話題を呼び込むモデルをつくり上げていることである。

https://shelltas.com/

他のケースとして、産業廃棄物などの天然素材を繊維に付着させ、その素材の特性を繊維に付加価値として上乗せさせた「Mineral Carbon®」という商品など、日本には世界に誇れる技術が多数存在している。この技術と全国各地の地域資源を組み合わせることで、新たな産業を創出することができるはずである。地域資源の近くにて生み出すことで、利便性と効率性が高まるため、地方の産業活性化の先行事例として注目に値する。このように民間の技術で地域資源を活かし、自治体が支える「公民連携」こそが、「地方創生3.0」の象徴としての取組みになるのではないだろうか。

https://www.blessing-no1.com/

8. 地域創生とは

「地域創生」とは、何だろうか。この分野における筆者の先輩が「その地域に携わる人々が幸せを感じられるかどうか」だと語っている。多くの日本人に欠けていることは、自分の「幸せ」を感じることである。移住・定住促進や関係人口などさまざまな政策が掲げられたとしても、そこに携わる人々が幸せを感じられなければ、その政策は無意味に等しい。幸せを感じるためには、心身の健康を整えるためにも経済面の豊かさを手に入れなければならない。みなさんは、自らの幸せを描き、言葉に表して、行動に移しているだろうか。必要以上の比較を行い、数字上の優劣に踊らされ、不安を抱き、チャレンジすることを諦めていないだろうか。義務感ではなく、自らの意思と役割を持って主体的に日々の生活を送ることができる人を増やすことこそが、真の「地域創生」だと考えている。
今の日本に必要なことは、「ヒト・モノ・コト」のアップサイクルに留まらず、「バ・チーム・チイキ」のアップサイクルである。日本人は、元来、災害の多い島国で繁栄した民族である。互いに助け合い、義理と人情を重んじ、困難を乗り越える強さを持っている。今こそ、「侍魂」を呼び起こし、各々が声を上げて、停滞する日本経済に風穴を開ける時なのではないだろうか。

(注1)2011年にスタンフォードビューで定義された整理手法。ステークホルダーが集合し、社会課題解決に向けてインパクトを与える集合的インパクトという意味。
(注2)本来は捨てられるはずの製品に新たな価値を与えて再生することで、「創造的再利用」とも呼ばれる。

著者プロフィール

藤川 遼介 (ふじかわ りょうすけ)

株式会社エピテック 代表取締役

株式会社エピテック 代表取締役。東京農業大学 国際食料情報学部 国際バイオビジネス学科(現 アグリビジネス学科) 卒業。一橋大学大学院商学研究科 修士課程修了。株式会社京都丹波アグリサービス 取締役、相模女子大学大学院社会起業研究科アドバイザリーボード、相模女子大学 学芸学部 非常勤講師。
東京農業大学在学時より地域振興活動に関心を持ち、現場目線の実践活動を行う。一橋大学大学院在学時は、「桃色ウサヒ」の活動に関心を寄せ、山形県朝日町にて研究活動を行う。大学院修了後、地域振興サポートを事業の柱とする株式会社エピテックを創業し、多拠点生活を開始する。ご当地バレーボール大会の運営などを通しながら、コミュニティ創造や若者の地域参画を実践する。この過程は、「ローカルプロジェクトフレームワーク」として、「ヒト」「モノ」「コト」それぞれのプロセス整理を実践の中から独自の理論で導き出す。業務としては、地域おこし協力隊制度設計、ゲストハウスコンセプト設計、DMO 設立などのサポートを担う。現在は、株式会社エピテックの事業の柱を地域振興サポートからサーキュラーエコノミーの推進へと発展させ、これまでの領域に加え、地域資源のアップサイクルを行う企画設計なども担っている。