『日経研月報』特集より

実践型の地域創生・ケーススタディ~人を変える、組織を変える、地域を変える~

2024年6-7月号

〈パネリスト〉 嶋田 俊平 (しまだ しゅんぺい)

株式会社さとゆめ 代表取締役CEO

〈パネリスト〉 牧瀬 稔 (まきせ みのる)

関東学院大学法学部地域創生学科 教授、社会構想大学院大学 特任教授

〈モデレーター〉 鍋山 徹 (なべやま とおる)

一般財団法人日本経済研究所 専務理事 地域未来研究センター長

(本稿は、2024年3月15日に東京で開催された講演会の要旨を事務局にて取りまとめたものである。)
1. 「700人の村がひとつのホテルに~伴走型コンサルティング会社さとゆめの挑戦~」嶋田氏
2. 「地方創生の事例紹介」牧瀬氏
3. クロストーク、質疑応答

1. 700人の村がひとつのホテルに~伴走型コンサルティング会社 さとゆめの挑戦~

嶋田 私は「さとゆめ」という地域活性化に関わるコンサルティング、事業プロデュース会社を経営しています。「ふるさとの夢をかたちに」というミッションを掲げ、2012年から現在まで国内の約50地域で、古民家ホテル、地域商社、沿線活性化事業などのさまざまな事業を立ち上げています。
当社の特徴は、伴走型コンサルティングです。私の25年間の地域系キャリアで、いかに地域に必要とされる存在になれるか、そして、いかにして組織を維持・成長させられるかを考えてきた結果、「伴走」というコンセプト・ビジネスモデルに辿り着きました。
このモデルは、精緻な考え方に裏付けされています。事業化までに長い年月はかかりますが、これには意味があります。初期段階は「NPOフェーズ」で赤字スタートです。NPOはじり貧になって続かなくなりがちですが、この段階で地域の方々の思いに耳を傾け、具体的な申請事務をサポートします。だからこそ地域の信頼が得られて、長いお付き合いができます。あるタイミングで、協賛金、補助金、委託費等を活用し、ようやくコンサルタントとして正当な対価が得られるようになります。この段階が「コンサルフェーズ」です。ここで注意しなければいけないのは、お金の切れ目が縁の切れ目になりかねないということです。売上、利益、雇用を生み出し続ける仕組みを作ることこそが事業ですから、ここでお客様の顕在・潜在ニーズの把握や、プロジェクトの要件定義、高い品質での業務執行などを行う必要があります。その後「事業フェーズ」に移行します。最初のNPOフェーズでの持ち出し分を、最後の事業化フェーズで取り返す仕組みです(図1)。当社の取組みを事例でご紹介します。

(1)山梨県小菅村

小菅村は多摩川の源流域で、700人の住民が急峻な谷間に肩を寄せ合うように暮らしています。公共交通機関は1日3~4本のバスだけで、コンビニやスーパーもありません。この村で、道の駅やホテルをつくってきました。小菅村に伴走して10年が経ちますが、道の駅、ウェブサイト、商品開発、イベントなど、この村だからこそできることをやってきました。その結果、年間10万人の観光客が20万人に増え、人口が一時下げ止まり、村内でベンチャー企業が5社できました。
しばらくして新しい課題がみえてきました。観光客は約2倍に増えたのですが、ほとんどは日帰りでした。それでは雇用が生まれません。この課題をビジネスチャンスに転換しようと考えたのが、100軒の空き家を客室にして100室のホテルにする「村まるごとホテル」です。古民家再生スペシャリストの(株)NOTEからアドバイス、出資をいただき(株)EDGEを設立し、分散型ホテルという最先端モデルを目指しました。このコンセプトは大ヒットし、SNSやメディアを通じて話題となり、今では多くのお客様にご利用いただいています。

(2)JR東日本との「沿線まるごとホテル」事業

この事例は、小菅村の成功モデルをローカル線沿線の取組みに展開したものです。青梅線のうち、青梅駅から奥多摩駅までの「アドベンチャーライン区間」で始めているのですが、この区間は13駅中11駅が無人駅になっています。
オンリーワンを模索するなかで、この地域の方は「集落」に強いアイデンティティを持っていることが分かり、駅と集落の単位で事業を作ろうと考えました。青梅線全体がホテルのエレベーターで、お客様は各階フロアではなく駅の集落に降りる、というコンセプトです。集落ごとに無人駅を「ホテルのフロント」、古民家を「客室」、住民を「キャスト」と見立て、無人駅や古民家の管理・接客を集落の住民が行います。各集落のアイデンティティは守られ、かつ金銭的メリットを発生させることで、自立的運営が実現できます。2021年12月にJR東日本と共同出資会社を設立して事業を本格化しました。

(3)地域での事業化の5つのポイント

地域で、小さな資本で事業化する際に肝となる5つのポイントをご紹介します。

① カテゴリを創出・独占できるコンセプトの立案

先述の小菅村の事例では、「古民家活用」と「分散型」に、「地域運営型」と「地域まるごと」の2つの要素を付け加えました。古民家活用の例はあっても、これら4つの要素が揃ったホテルはここだけで、唯一無二です。

② 客単価・客数から逆算したハード・ソフトの計画

現在、空き家を改装して4棟6室と22席のレストランを開業し、5、6棟目の改装を計画中です。客単価は1泊2食付きで平均単価は1人4万円です。宿泊事業は客単価と客数ですべてが決まります。山奥にある小菅村で稼働率8割は厳しいのですが、雇用を守り、雇用をつくるために必要な数字を収支計画にインプットすると、平均単価を4万円に設定しないとペイしません。そこから逆算して、この単価に見合う部屋の改修費、備品単価、接客費等々を準備していきました。ここでのポイントは、客単価で勝負するのか、客数(稼働率)で勝負するのかを選ぶことですが、客数で勝負すること、つまり稼働率を上げることは難しいため、客単価をしっかり設定することが重要です。そして、この客単価を実現するためには、ソフトで勝負する必要があります。
ソフトの要素の1つ目は「地域運営型」であることです。住民が送迎、清掃、ガイド等を行い、お客様をおもてなしします。年金暮らしの方がパートタイムで手伝うため、固定費は下げられます。2つ目は「地域まるごと」という要素です。道路やあぜ道はホテルの廊下、道の駅はロビー、温泉施設はスパ、住民はコンシェルジェと設定して、その設定をみんなで楽しんでいます。道、すなわち廊下に空き缶が落ちていれば拾い、道に迷っているお客様がいれば、ホテルのスタッフとして軽トラに乗せてあげます。そういうエピソードが村中で起こると、おもてなしが増して集客に繋がるのです。

③ 付加価値、コスト柔軟性を生み出す地域の巻き込み

都市型ビジネスでは出せない、情緒・ホスピタリティ・関係性を提供することが重要です。さらに、先述の2つの事例のように地域住民を巻き込んだ運営によって固定費を下げられます。事業のコンセプトと実体が繋がると、事業に迫力が出て、メディアからも大きく取り上げられるようになります。

④ 愛着・誇りやアイデンティティに基づく圏域の設定

住民が、愛着や誇り、アイデンティティを感じられて、かつ、お客様にも共感してもらえる圏域を設定して、その単位で事業をつくることが大事です。

⑤ コンセプト・コンテンツ・客単価等の徹底的な実証

実際のニーズを確かめるため、コンセプトやコンテンツがお客様に感動を与えるか、また、計画通りの客単価を本当に払ってもらえるか、モニターツアーやテストマーケティングを通じて実証することも欠かせません。先述の沿線まるごとホテルの実証では、60組の募集が完売し、30組追加すると再び完売しました。そこではじめて「いける」と思うのです。近年の消費者の動向として、モノ消費からコト消費を実感しますが、コンセプトやコンテンツ、客単価がみえてきてもいきなり事業化せず、まずはしっかり実証することが重要です。

2. 地方創生の事例紹介

牧瀬 最初に地方創生の意味を確認します。現在、地方創生は、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局と内閣府地方創生推進事務局が担当していますが、以前は、まち・ひと・しごと創生本部が担当していました。この本部の英語名は、Headquarters for Overcoming Population Decline and Vitalizing Local Economy in Japanです。ここで、Headquartersは本部、Overcoming Population Declineは人口減少克服、and以下は、地域活性化という意味です。つまり地方創生は、人口減少克服と地域活性化の2点に定義されます。今回は、人口減少の観点からいくつかご紹介します。
私は、ピーター・ドラッカーの「企業の目的は顧客の創造だ」という考えを行政にあてはめて使っています。行政にとって顧客は住民であり、住民を創造しなければ行政は潰れるということです。ただ行政の場合、老若男女を問わずすべての住民が対象であることが、セグメント別に顧客をターゲッティングする民間企業との大きな違いです。行政も企業と同じようにしっかりターゲティングをしないと成果は出ません。
人口減少に対処するキーワードは、住民の創造です。これには2つの方法があります。まず、子どもをたくさん生んでもらい死亡者を減らす、自然増です。もう1つは社会増です。社会増には、既存住民の転出抑制と潜在住民(例えば、自分達の自治体外に暮らしているが、過去にその地域に住んでいたなどのつながりがあり、感情的なつながりを保ち続けている住民)の転入促進しかありません。人口を増やしたい場合は、潜在住民がポイントです。
A市とB市の事例をご紹介します。A市は、人口を増やすために「奪う」地域を決めました。シティプロモーションを行う対象地域は隣接する市区です。「奪う」ということは、民間では当然の発想ですが、行政では違和感を持たれるかもしれません。しかし、人口を増やすためには有効な方法です。結果、A市の人口増加率は当時(2015年頃)全国第7位となり、年間で1万3,000人増えました。
他方、B市は「対象層」を明確にしました。社会増の対象層をセグメントに分けると、独身は男性・女性に、既婚者はDINKs・DEWKs・SINKs・SEWKsに分かれます(図3)。B市は、世代別、世帯年収までセグメント化し、持家、既婚者、DINKs・DEWKs、30代前半、世帯年収1,000万円以上をターゲットに決めました。30代前半がターゲットですから、第一子を生む年代に刺さるコピーを検討しました。B市は政策が継続していることもあって、人口は今でも14%超えで推移しています。

地方創生の成功のキーワードは、「戦略性」、「目標共有」、「危機感」の3点です。ドラッカーは「選択が戦略」といいますが、行政は公平性という言葉に縛られます。これが行政の弱点で、いわば公平性の呪縛ともいえます。首長や議員などの政治家が主導して、ターゲティングを絞り込み、戦略を練ることが重要です。2点目は「目標共有」です。私の関わる団体では、すべての職員が研修に参加して、理念を浸透させます。関係者間で目標をしっかり共有化することがポイントです。最後に「危機感」です。民間企業の場合は、利益が減り給料が減ると危機感を持ちますが、行政では、人口が減少しても給料は決まって増えていく傾向があるため、危機感を持ちにくい環境にあります。この危機感の無さが破滅の第一歩です。一例を示すと、現在私が関わっている静岡県焼津市は、2040年の人口3区分(若年人口、生産年齢人口、老齢人口)が現在の山形県酒田市とほぼ同じです。つまり焼津市の2040年は酒田市で実現されています。職員が現地を見に行けば、未来の姿を目の当たりにしてリアルな危機感を持つかもしれません。

3. クロストーク、質疑応答

嶋田 地域の移住戦略のトレンドは変わってきています。以前は、地域おこし協力隊を募集する際は「こういうことに困っているから地域づくりを手伝ってほしい」と打ち出し、それを意気に感じた移住者を獲得する地域が多かったのですが、最近は「あなたの自己実現を支援します」という打ち出し方に変わってきています。「助けてください」ではなく、都会で実現できなかった働き方や暮らし方を応援しますといったイメージを与える地域が、うまくいっているような気がします。
牧瀬 他の地域と差別化できている地域はうまくいっていると思います。地方創生の「創生」には、はじめてやるという意味がありますが、どこも同じようなことをやっていて差別化になっていません。差別化の取組みは、当たれば大きいのですが失敗もあります。行政は失敗を恐れる文化があるのでなかなか一歩を踏み出せません。だからこそ、首長、議員がしっかりフォローすることが肝要です。
質問A 実力を自治体単位で高めていく戦略と、集落や自治体をいくつかつなげてクラスターとして見立てて考える戦略があります。クラスターとして力を上げていく動きと競争によって個々の実力を高めていく動きは、共存できるのでしょうか。例えば小菅村の取組みは、将来的には村単位ではなく、隣村地域と広域で連携し、広域周遊によって山梨県全体の魅力を上げることができるのではないかと思います。
嶋田 私は、新しいカテゴリを生み出し、唯一無二になるということをより強く意識していますが、その唯一無二が、コンセプトや交通で近隣の地域と繋がることもあるでしょう。先ほど述べた2つの事例でも、地域資源を抽出し、点から線、線から面にする取組みですので、多くの方がこの取組みに共感し協力してくれます。多摩川を中心にした新しい人の流れを生み出すために、集落まるごとホテルが集まり、沿線まるごとホテルになり、それが流域まるごとホテルになるというような構想が考えられます。
そのうえで大事なことは、モヤモヤをワクワクに変えることです。コンサルがやりがちなのは、地域課題をたくさん挙げて、出された課題をグルーピングして、その課題群で解決の方向性を考えるというやり方です。それではどんどん気が滅入ってしまいます。そうではなく、この村がどうなったらいいか、昔、何が楽しかったか、夢や思い出を引き出していくと議論が収斂していきます。「それやりたい」とみんなが乗ってきて、ワークショップが終わる頃には具体的な取組みが決まってくるのです。
鍋山 「あるもの探し」から地方の魅力を創り出すプロセスが大事です。小菅村は、悲願であったトンネルの開通が、道の駅やその他の施設をつくるきっかけになりました。
全国約1,800自治体の中で、実際に動いている自治体は少ないのでしょうか。
嶋田 さとゆめは、約50の自治体に関わっていますが、全体の数からすると、ごく一部です。各専門家が地方創生に取り組むのではなく、行政と市民の全員が自分のふるさとでアクションを起こし、ムーブメント化していかないと、間に合わないのではないでしょうか。
牧瀬 地方創生総合戦略があるので、すべての自治体が何らか動いていますが、ほとんどの自治体が成果を上げられていません。どの自治体も似たようなことに取り組んでいるので、動いてはいるけれど同じ土俵で戦っているようなイメージがあります。
質問B 古民家をホテルにする場合、空き家をなかなか貸してくれない話も聞きます。地域の方と話し合いを重ねるといっても、総論では賛成ではあるものの、各論では反対となることも多いのではないでしょうか。どういったかたちで合意を得るのでしょうか。
嶋田 統計上でも空き家は多いのですが、いい物件はなかなか見つかりません。スタッフがその地域に通い続け、移住する等で信頼関係を構築することで、情報が集まってきます。かなり属人的なやり方です。
鍋山 今回紹介いただいた併走型の取組みは、時間をかけてますね。3年でできるのは例外であり、5年かければまあまあできて、確実に成果を上げるには7年は必要だということから、「七五三」の法則といっています。時間をかけることは大事です。それに、粘り強さと、めげないこと。特に、首長が後ろ盾になってくれることも大切です。首長が交替すると方針が真逆になることが多いです。首長にはある程度、継続していただかないと事業が進みません。この点は大きな課題です。
質問D 一番の失敗と得た教訓を教えてください。また、地域おこし協力隊との連携はありますか。
嶋田 小菅村の道の駅は、今でこそ関東地域の道の駅ランキングで3位ですが、駅長やシェフがすぐに辞めてしまい、開業2ヶ月で休業に追い込まれた経緯もあります。どういったコンセプトの道の駅をつくるかという意思統一がスタッフ間で共有できなかったからです。ただ、それを失敗と決めず、乗り越えて成功事例にしていくというスタイルでやっています。
地域おこし協力隊の制度はフルに活用しています。小菅村の古民家ホテルの立ち上げも、最初の3年間は企業派遣型で3名にお手伝いいただきました。私の経験では、3年間でやり遂げるミッションを協力隊に渡して、そのミッションを村民とも共有して、みんなで協力隊を一人前にするやり方がうまくいっている気がします。
鍋山 「集落まるごと」という言葉の創造はポイントです。人に伝えるときには、漢語と大和言葉を混ぜるのが有効です。これはAIDMAというマーケティングの原則と共通しています。また、お二人のベースには数字やデータをもとにした理論があります。現場では、それをもとに仮説を立てて議論を展開されています。もう少し気楽にやろうといったマインドセットも共通していることがわかりました。
本日は貴重なお話をありがとうございました。

著者プロフィール

〈パネリスト〉 嶋田 俊平 (しまだ しゅんぺい)

株式会社さとゆめ 代表取締役CEO

株式会社さとゆめ 代表取締役CEO
京都大学大学院農学研究科森林科学専攻終了。大学院終了後、環境系シンクタンク入社。9年間の勤務後、2013年(株)さとゆめ設立。地方創生の戦略策定から商品開発・販路開拓、店舗の立上げ・集客支援、観光事業の運営まで、一気通貫で地域に併走する事業プロデュース、コンサルティングを実践。2018年、ホテル開発・運営会社(株)EDGEを設立(代表取締役)。2019年8月、山梨県小菅村に分散型ホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」開業。山形県河北町の地域商社(株)かほくらし社、人起点の地方創生を目指す(株)1000IVE、JR東日本との共同出資会社・沿線まるごと(株)の代表取締役も兼務。
著書 『700人の村がひとつのホテルに「地方創生」ビジネス革命』(文藝春秋 2022年6月)

〈パネリスト〉 牧瀬 稔 (まきせ みのる)

関東学院大学法学部地域創生学科 教授、社会構想大学院大学 特任教授

関東学院大学 法学部地域創生学科 教授、社会構想大学院大学特任教授
民間シンクタンク、横須賀市役所(横須賀市都市政策研究所)、(公財)日本都市センター研究室研究員、(一財)地域開発研究所研究部上席主任研究員を経て、2017年4月関東学院大学法学部地域創生学科(准教授)、2023年4月より教授(現職)。
関東学院大学地域創生実践研究所長、社会構想大学院大学特任教授を兼務。
著書 『牧瀬流まちづくりすぐに使える成功への秘訣』(経済調査会 2023/6)、『地域づくりのヒント』(社会情報大学院大学出版部 2021/9)、『地域創生を成功させた20の方法』(秀和システム 2017/12)ほか多数

〈モデレーター〉 鍋山 徹 (なべやま とおる)

一般財団法人日本経済研究所 専務理事 地域未来研究センター長