明日を読む
米テック大手規制とNTT法改正
2024年6-7月号
スマートフォンの基本ソフト(OS)やアプリストアを提供する米大手ハイテク企業を対象にした「スマホソフトウエア競争促進法案」が4月末、閣議決定された。公正取引委員会による法案で、いわゆる「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」が日本のIT市場で非競争的な行為を行わぬよう取り締まるのが目的だ。
公取委は以前もグーグルに対し「スマホの初期設定で自社検索サービスを優遇した」として審査するなど米テック大手に目を光らせてきた。今回、新たに法律を定めるのは、欧州連合(EU)がGAFAに競争を促そうと「デジタル市場法(DMA)」を2022年に制定し、今年3月から運用を始めたことが背景にある。
「DMA」はGAFAやマイクロソフトなど米国や中国のテック大手6社の22サービスが対象で、自社ソフトの優遇や抱き合わせ販売などを禁止し、違反すれば世界売上高の最大20%の制裁金を科すという。公取委もEUにならい、競争を阻害したテック大手には国内売上高の最大20%の課徴金を科すと定めた。
公取委はこれまで独占禁止法を根拠に抱き合わせ販売や優越的地位の濫用などを取り締まってきたが、IT市場では多くのサービスが無償で提供され、市場規模も特定しにくいことから対応が後手に回ることが多かった。そこでEUのDMAと同様に事前規制型の法律を定めることで、企業側と継続的に対話しながらビジネスモデルの改善を促せるようにする考えだ。
EUや公取委がそうした規制に乗り出したのはIT市場でのGAFAの支配力拡大が見逃せない。スマホのOSはアップルとグーグルの2社で世界シェアの99%を握り、アプリやコンテンツを配信するアプリストアも両社が市場をほぼ独占している。開発者がソフトやコンテンツをアプリストアで配信するには30%の手数料を支払う必要があり、ソフトやコンテンツの自由な開発環境を損なっているという。
GAFAに対し規制を求める声はおひざ元の米国内からも上がっている。バイデン政権はEUが3月にDMAの運用を開始した直後、アップルを反トラスト法(独禁法)違反の疑いで提訴した。同社の「iPhone」と腕時計型端末の連携機能などで他社を不当に排除したりしていたというのがその理由だ。
バイデン大統領はGAFAに否定的な論文を書いたことで知られるコロンビア大学のリナ・カーン教授を連邦取引委員会(FTC)の委員長に据えるなどGAFAとは距離を置いてきた。今回、あえてアップルを提訴したのは、同社に反感を抱く米国民を取り込むことで大統領選を有利に導きたいという狙いもあるようだ。
日本の「スマホソフトウエア競争促進法案」は今国会での成立を目指しているが、4月中旬にはIT分野のもうひとつの重要法案といえる「NTT法」の改正案が成立した。国営通信会社だったNTTには様々な規制があるが、改正の結果、研究成果の開示義務が撤廃され、外国人役員も取締役の3分の1未満まで就任でき、社名変更も可能になった。NTTの国際競争力を強化しようというのがその狙いだ。
全国に通信を提供するユニバーサルサービスの義務や外資規制、政府による3分の1の株式保有義務などの規制は議論が持ち越されたものの、NTTにとっては海外事業展開のハードルが少し低くなった形だ。GAFAがグローバルなIT市場で成功できたのは彼らを国内に縛り付ける規制がなかったからだともいえる。
NTTをフリーハンドにすることにはライバルの通信会社からは強い批判の声がある。しかしGAFAの専横ぶりに歯止めをかけるには法律で規制するだけではだめで、GAFAに対抗できる別な勢力を育てる必要がある。NTTにその役割が担えるかどうかは彼らの今後の頑張り次第だが、少なくとも同じ土俵に乗せて競争させることが重要だといえよう。
NTTは今後のAIやデータセンターの需要拡大を考えると、電力を抑える新たな技術が必要だと訴える。それを実現するため打ち出したのが次世代光情報通信基盤の「IOWN」構想で、GAFAに対するゲームチェンジのカギを握るという。その意味では米テック大手に対する規制強化やNTT法の改正がそうした戦略にどう影響するのか、今後の展開が楽しみだ。