World View〈アメリカ発〉シリーズ「最新シリコンバレー事情」第6回

NVIDIAのGPUがもたらすAIの脅威

2024年8-9月号

遠藤 吉紀 (えんどう よしのり)

BEANS INTERNATIONAL CORPORATION代表

今年3月半ばにシリコンバレーの主要都市サンノゼにある16,000人収容のアイスホッケースタジアムにおいて、Graphics Processing Unit:GPU(以下、GPU)開発で世界トップシェアを誇るNVIDIAの基調講演が開催された。発表によれば会場はほぼ満員。今まさに注目のAIの核となるGPUがもたらす近未来を革新するような製品の発表と、CEOのジャンセンファンの基調講演が行われるということで、Appleが年に一度行うWorldwide Developers Conference:WWDCをはるかに凌ぐ来場者数だったとの報道もあり、その注目度の高さがうかがえる。

既知の通り、生成AIのアルゴリズムやソフトウェアの性能を引き出すためには、パソコンにおけるCPUの性能が、容量の大きな多機能のソフトウェアを運用するのに必要となるのと同様、GPUの性能がまさに基準となってくるのだが、今回発表された「GB200」という最新のモデルは、今までの性能を10倍以上高めたという革新的な製品である。これにより、今まで時間がかかっていた膨大なデータの処理や解析が、より高速で実現できる。つまり特に高度なデータの取集や解析を瞬時に行う必要があるAIのアルゴリズムが、その容量のサイズで不可能、もしくは長時間必要とされてきたことの10倍以上の速さで現実的になるということを意味している。
既に、このGPUの発表以前からOpenAIに代表される多くの生成AIの開発企業やスタートアップは出現している。現在、その数は数千社ともいわれており、2023年の段階で時価総額が3兆円以上のOpenAIをはじめ、学習や自然言語処理のAnthropic、消費者向けのAIツールを開発するCohere、生成動画や画像処理にフォーカスしたRunwayなど、各分野や産業に特化したAIのユニコーン企業(時価総額1,500億円以上)が13社も誕生している。この先、この新しいNVIDIAの製品が本格的に投入されれば、AI分野のユニコーン企業は加速度を増して確実に増加していきそうだ。

筆者も動画配信サイトで、冒頭で触れた約2時間の基調講演を聞いたのだが、内容のもたらすインパクトはまさに驚愕だった。基本的にNVIDIAの製品はGPUだが、極端な見方をすれば、使用可能なソフトウェア(生成AI)の能力は、このGPUの性能によって、全産業をも凌駕してしまいそうな可能性を持っているということが実感として伝わってきた。加えて、そのCPUを動かすための独自のプラットフォーム(CPUを動かす土台。PCでいえばOSなど)の開発と、その無償提供も発表していた。
その中で紹介された、筆者のような素人でも単純でわかりやすい例があった。例えばロボットの開発をしている企業が彼らのGPUとそのプラットフォームにあるプログラム生成のAIを使えば、ロボットにさせたい人間の動作をスマートフォンのカメラで撮影し、ダウンロードするだけで、ロボットに同じような駆動をさせるプログラムが自動生成される。例えば双腕型ロボットに、指などを動かす機能があれば、寿司を握る動画をスマートフォンのカメラなどで撮影しプログラムを自動生成させることで、ロボットが寿司を握れる動作をしてしまうというものだ。勿論、最終的な微調整は必要になるとは思うが、ロボティクスの要になるプログラムが自動生成できるということは、その用途が爆発的に普及していくだろうということを容易に想像させる(このような事例が他にもたくさん紹介されていた)。
そして、この先は間違いなくNVIDIA以外にも多くの半導体企業がこの分野に特化したデバイスの開発と製品化を進めていくと思われる。製造業関連に従事している筆者にとっては、このようなGPUの普及とAIのソフトウェア(アルゴリズム)についてはまだまだ素人の域ではあるが、製造プロセスの革新と通常の営業業務の観点から、これらの浸透がもたらす現場の状況に関して考えてみた。ものづくりの製造業がNVIDIAのGPUを使用したうえで展開するプラットフォーム利用型の近未来AIとは、どのようなものだろうか。
1. 各企業の分野におけるマーケット需要をAIによって解析し、必要とされている新しい製品のコンセプトを決定。
2. その製品のデザインと機構や電気設計をAIにて行い、プロトタイプを製作。
3. 詳細が固まった段階で、量産に必要となる製造プロセスの構築と世界中のサプライヤーからの資材調達をコストや納期の面を含めAIで最適化。
4. 製造においてはシステムのプログラムはAIで自動生成、また工程管理や歩留まりの状況確認もAIにて行い、データを全て一元管理。
5. 完成し一元管理された製品の保守やサービスも同様に、製品の過去の不良やサービス事例を基にAIによって最適化し対応。
ここまでくると、製品完成までのプロセスの効率化や品質向上、そして価格低減も予想ができて業界全体が大きく変わる可能性がある。
同様に通常の営業業務においても、この製品の需要がありそうな顧客リストをAIによって収集し、これらの顧客に売り込むために最適なプレゼンテーションをAIにて自動生成。このプレゼンをAIが作成したダイレクトe-mailの文章を使って、その顧客リストに自動配信。反応のあった顧客からの質問事項はQ&Aのテンプレートを準備し内容に応じてAIが自動返信し、見積もり依頼が入れば、これもまたAIが依頼内容を解析して自動作成して返送。正式に発注書が届いたら、メーカーや工場に自動発注。といった具合で、正直、ほとんどの業務はAIによって代替え可能と思われる。
そうなると、この先、どこに人間が介在するのか? というレベルにまで到達してしまうことがこの先間違いなくやってくる状況は明らかだ。
勿論、現在の自身の営業業務はもとより、客先の製造ラインを見る限りでは、その過程で上記のようなAIが浸透している様子はない(というか知らないだけかもしれない)が、これが間違いなく数年のうちに激変していくだろうということは安易に想像できる。逆に言えば、このような可能性に着目し、今の段階からこのようなAIの実装の勉強や導入を検討していけば、より高い競争力を確保できるし、さらに効率の良いビジネスを他社に先駆けて発展させることができるだろう。
ただ併せて、この効率化によって必ず起きるであろう人員削減や失業率の増加といった状況に対しても、最初から考慮しておく必要は不可欠だと考える。
今回のNVIDIAの基調講演を意識するまでもなく、今世界中でAIによる産業の大変革が始まっている。そして、その社会への浸透は指数関数的に増えていくことは間違いない。当初AIの普及は法曹界や医療、会計といった高額所得分野の凌駕という認識が強かったが、今や映像分野への浸透でハリウッドの映像業界に大打撃を与え、この先もメディアやコンサルティング、会計等の分野へも大きな影響を与えることは必至であろう。可能性としては今年の後半頃からAIの浸透によって、中小はもとより大手企業の倒産などが続々と出てくるかもしれない。余計なお世話かもしれないが、このような状況をどう捉え、そして自分たち自身への影響も含め、どのように対処していったらよいか。少なくともニュースやメディア報道からでも、できるだけ情報を収集し、自分なりのAIに対する認識を少しでも持つことが必要だと今回のNVIDIAの講演を聞いて強く感じた次第である。

著者プロフィール

遠藤 吉紀 (えんどう よしのり)

BEANS INTERNATIONAL CORPORATION代表

BEANS INTERNATIONAL CORPORATION 代表
1988年に検査機器製造メーカーの駐在員として渡米後、10年間の赴任生活を経て、1999年シリコンバレーの中心地サンノゼ市にて起業。
以降、日本の優れた製造技術や製品の輸入販売を生業とし、一貫して米国の製造業に携わりながら現在に至る。
http://yoshiendo.com