明日を読む
中ロ戦略的パートナーシップの行方
2024年8-9月号
この5月、習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と北京で会談し、「全面的戦略協力パートナーシップ深化に関する共同声明」に署名した。プーチン大統領には3月の大統領選勝利後、最初の外国訪問だった。
新華社によれば、習主席は会談で次のように述べた。
中国はロシアの「良き隣人、良き友人、良きパートナー」として「互いの国の発展、振興を共に実現させ」、「手を携えて世界の公平と正義を守っていきたい」。「常に平和共存5原則を発揚し」、「真に支え合わなければならない」。それが両国の「正しい付き合い方」で、「21世紀の大国関係が努力すべき方向でもある。」中国は中国式現代化を全面的に推進し、「新たな質の生産力」の発展を加速させている。「中ロ両国は共に国連安全保障理事会常任理事国と主要新興市場国であり、双方が戦略的協力を拡大し、互恵協力を深め、世界の多極化と経済グローバル化という歴史の大勢に順応することは、両国共通の戦略的選択である。」
プーチン大統領はこう述べた。「ロシアは中国と2国間協力を持続的に拡大し、国連やBRICS諸国、上海協力機構(SCO)などの枠組みの下で緊密に意思疎通、協力し、より公正で合理的な国際秩序の構築を推進していきたい。」中国と「戦略的協力を緊密にし」、「世界の多極化と国際関係の民主化プロセスを促進し」、「ロ中の全面的戦略協力パートナーシップがより多くの成果を収めるよう」推し進めたい。
これは新華社の、つまり、中国サイドの報道である。しかし、ここからでも、二つのことはかなりの確度で言える。両首脳は「世界の多極化」が米国主導の国際秩序からの脱却にプラスであり、そのための手段として国連、BRICS、上海協力機構などの枠組みを位置付ける。IMFは世界の経済を「先進経済」(先進国)と「新興市場・発展途上経済国」(新興国・途上国)に分けるが、世界経済(名目)に占めるそれぞれのシェアは2000年の80%、20%から2023年には57%と43%にシフトした。「新興市場国」である中ロはこうした新興国台頭の趨勢を「多極化」と捉え、「歴史の大勢」は自分たちに有利な方向に動いていると考える。BRICS諸国、上海協力機構(SCO)などの枠組みを重視するのもそのためである。
両首脳は22年2月に「限りない友情」を誓い、ロシアのウクライナ侵略以降も「手を携えて」きた。しかし、北朝鮮、イランがドローン、ミサイルなどを供与するのに対し、中国はロシアの武器製造に不可欠な半導体、光学機器などの軍民両用(デュアルユース)品を大量に供給しているが、武器は供与していない。「連携」は進めても、ユーラシアの「枢軸化」には距離をおいている。「平和共存5原則(領土保全及び主権の相互不干渉、相互不侵犯、内政不干渉、平等互恵、平和共存)の発揚」、あるいは先日の上海協力機構会議の際、習主席が(ウクライナ侵略に関し)「主権と領土の一体性を尊重する」と表明したのはその趣旨だろう。そうでなくとも、日米欧との摩擦は拡大している。「新たな質の生産力」発展のためには、日米欧との「デカップリング」もできるだけ避けたいだろう。
ウクライナをめぐるロシアと米国を中心とする「自由世界」の対立は中国には戦略的プラスである。戦争遂行のため、ロシアが政治的・経済的に中国にもっと依存するのもプラスである。習主席はこれは全て、あるべき世界構築の一助になると考えているだろう。そうでないとわからせるには、そのコストがきわめて大きいことを示すほかない。それは具体的には、ウクライナの戦争でロシアに勝たせないことであり、中国が他国の犠牲の上に「新たな質の生産力」の発展を追求すれば、ますます孤立するということであり、南シナ海と台湾で「灰色領域」の活動を活発化させれば、中国の安全保障環境はさらに悪化すると示すことである。