地域の現場から
自転車で巡る備前・備中「古墳」の旅
2024年10-11月号
古代、大和朝廷に匹敵する力を誇ったと言われる吉備国。これを象徴するのが古墳である。巨大古墳といえば近畿地方に集中しているイメージがあるが、ベスト10のうち2つが岡山に存在するというと驚く人も多いだろう。当時の吉備国の繁栄ぶりがうかがわれる。
岡山県下の前方後円墳は、備前・備中・美作でおよそ150基あるそうだ。そのうち100m以上の大型前方後円墳は備前に7基、備中に6基である。巨大古墳のまわりには、取り巻くように円墳や方墳が点在する。これらの古墳が築造された時期は古墳時代中期、4~5世紀だと言われている。
このように古墳はたくさんあるが、公共交通機関で向かうには少々難があるところが多い。それぞれの古墳の間も一定の距離がある。そこで自転車の出番である。岡山市中心部からも20㎞圏内に収まっており運動にもちょうど良さそうだ。筆者は平日の運動不足を解消すべく、週末は行く先々の赴任地で近場の山に登ったり、ママチャリで少し遠出をしたりしている。岡山に赴任して1ヵ月が経つが、岡山南部は恵まれた平野で、これといった山が見当たらない。当面、山登りは諦めて自転車にしようと決意したところであった。
ある晴れた週末の朝、愛用の自転車とともに自宅を飛び出した。出で立ちは岡山ジーンズに岡山のデニム帽子。ちなみに岡山(倉敷市児島地区)は日本のジーンズ発祥の地でもある。岡山で仕事をするからには地元へのコミットが大事だと考えている。この日は備中方面に向かった。
いくつかの古墳をまわったうち、紹介したいのは何といっても県下随一の大きさを誇る「造山古墳」である。表にもあるように、この古墳は墳長350mを誇り、国内でも第4位の規模を有する巨大な前方後円墳だ。さらに、訪れるに際して「自由に立ち入れる」ことを強調したい。上位3古墳はいずれも天皇陵であるため立ち入ることができない。造山古墳は「歩いて登れる古墳で日本最大」なのである。ふもとに自転車を置いて、ありがたく墳丘に登ってみた。華やかさはないが当時の姿が自然な形で残っている。夏の風に吹かれながら周囲を見下ろしていると、1500年以上も前、吉備に生きた人々の息吹が感じられるようだ。悠久の時に心が動いた。
もう一つ紹介するのは、巨大古墳とは異なるが、特徴的な古墳、「こうもり塚古墳」である。岡山県には三大巨石墳といわれる石室構造の大きい古墳があり、そのひとつに数えられている。こちらの古墳は横穴式石室の構造で、遺体を安置する玄室の手前まで入ることができ、柵ごしに石棺を拝観できる。ただし、そこに至るまでの羨道はなかなか不気味で、見学には多少の勇気が必要かもしれない。石室内にこうもりがたくさんいたことが名前の由来ということだ。
それにしても暑い。コンビニ休憩のたびに500mlのペットボトルを飲み干してしまう。そんな過酷な状況で癒しとなるのが「桃」である。岡山の桃の産地は市内の少し北側、水はけの良い丘陵地となるため、古墳群とエリアが重なっている。自転車で走っていると桃の直売所と出会うことができる。桃というのは傷みやすく、一般に取り寄せの桃は青いうちから収穫しているが、本当に美味しいのは木で熟した樹熟(きうれ)の桃だという。現地でしか食べられない味だ。筆者が手にした桃がそこまで樹熟だったかは分からないが、手で触ると手形がつくほど柔らかく、皮は手で簡単に剥けてしまう。口に入れると糖度は抜群、桃独特の香りとともに豊かな果肉・果汁で口内が満たされ、幸せいっぱいな気分となる。この旅のもう一つの収穫であった。なお、岡山の遺跡からは相当数の桃の種が出土している。古墳時代の吉備人も桃を食べて暑さを凌いだのではないだろうか。
さて、備前の古墳も紹介したいところだが、紙面に余裕がないのと、前述のものと比較すると迫力に欠けるため割愛することとしたい。ただ、備前最大の古墳「両宮山古墳」(墳長206m)のすぐ傍にある直売所で購入した桃が美味であったことは付言しておきたい。
古墳を自転車で巡ると、①地味ながら隠れた岡山の魅力である「古墳」を体感できるとともに、②現地ならではの旬の「岡山白桃」を味わいながら、③自転車で「運動不足解消」にもなるという、一石三鳥の旅となった。桃の季節は7~8月である。来年、皆さんにもぜひオススメしたい。