『日経研月報』特集より

DBJ BCM 格付融資の考え方と活用事例について

2024年10-11月号

松浦 拓美 (まつうら たくみ)

株式会社日本政策投資銀行サステナブルソリューション部 調査役(BCM格付主幹)

1. はじめに:DBJサステナビリティ評価認証融資について

DBJ サステナビリティ評価認証融資とは、(株)日本政策投資銀行(以下、DBJ)が提供する金融サービスの一つである。DBJが独自に開発したスクリーニングシステムにより企業の非財務情報を評価し、企業との対話を通じて非財務情報を企業価値に反映させることで、サステナブルな活動に取り組む企業が金融市場やステークホルダーから正当に評価される環境を整備することを目指している。同時に、企業のサステナブル経営に関して多面的かつ客観的な評価を行うことによって、企業の実効的なPDCA運用に貢献することも目的としている。
DBJは、40年以上にわたる環境対策事業に対する3兆円以上の投融資実績により培った知見をもとに、2004年に「DBJ環境格付融資」という金融商品を開発した。それを皮切りに社会課題に対する金融面からのアプローチをより発展させるべく、2006年には「DBJ BCM(注1)格付融資」を、2012年には「DBJ健康経営格付融資」をそれぞれ開発し、これら3つをDBJサステナビリティ評価認証融資として、環境・CSR経営、防災・BCM、健康経営といった観点から、企業ひいては社会の持続可能性を高めるため提供している(図1)。

本稿では、その中でもDBJ BCM格付融資(以下、BCM格付)について、理念・目的や内容、活用事例等を紹介する。

2. BCM格付の概要

DBJでは、防災・減災やBCMへの先進的な取組みを行っている企業や、今後取組みを推進していくことを考えている企業に対し、金融技術を活かした支援を行うため、BCM格付を設計した。その背景には、「災害レジリエンス(注2)の高い日本社会をデザインします」という商品理念のもと、BCM格付の普及を通じ、企業の総合的な危機管理への自助努力を促進し、中長期的には社会・経済に求められるレジリエントな企業が評価される金融環境の整備・育成を目指したいという考えがある。
特に近年では、地震をはじめとする自然災害のリスクに加え、新型コロナウイルス感染症に関するリスクや気候変動に伴うリスク、地政学リスクやサイバーリスクなど、企業のBCMを脅かすリスクが巨大化・多様化・複雑化してきており、企業のサステナビリティを考えるうえで、まさにオールハザードリスクへの対応が必要不可欠となっている。そうしたなか、BCM格付では、詳細は後述するが、あらゆる危機的事象に対して企業が事業を継続するための経営戦略及びその実効性を評価し、ランクと得点付けを行っている。それに加え、評価後にはフィードバックを行い、その企業の優れた取組みを採り上げるだけではなく、他社好事例の紹介や、今後企業に期待される防災・BCMの取組みに関する動向等も交えながら、更なるレベルアップのための助言も行っている。
なお、BCM格付の実績は着実に積み上がっており、2023年度末時点の累計利用数は460件、累計融資額は6,040億円に達している(図2)。

3. BCM格付における評価の視点

BCM格付における評価は、DBJが独自に開発した約90問から成るスクリーニングシートを用いて行う(表1)。

その設問構成は2段階となっており、まず第1に「防災評価」を行っている。ここでは従業員の生命安全確保を目的に、各地域や業界で求められる災害対策の基本的な法定要件を満たしているかを確認し、そのうえでそこに留まらない消防・防災計画や各種防災訓練の取組みを評価する。はじめに防災評価を行う理由としては、総合的な危機管理において最も重要なのが防災、つまり被害抑止であり、これがないといかに優れたBCM戦略・計画を持とうが、その後の事業を継続していくことが不可能となるためである。
第2は「BCM評価」である。ここでは、BCP(注3)の策定とその実効性の確保を目的とし、さまざまなBCMリスクの認識とそれに対応する戦略、訓練の取組み等を評価する。すなわち、①オールハザードリスクを踏まえて自社の優先業務を明確にし、②そのうえで目標復旧時間・水準を定め、③そのために必要となるリソースを特定するといった一連の分析(Business Impact Analysis:BIA)や、④その分析を踏まえたBCM戦略の検討、これら⓵~④が着実に行われ、BCPへと精緻に反映されているかを評価する。加えて、BCPの策定のみに留まらず、その実効性の確保も非常に重要な要素としている。そのため、BCM評価の後段では、防災訓練とは異なるBCMにかかる訓練・演習や、業界・サプライチェーンにおける他企業との平時からのコミュニケーション状況等についても、相応の重みをもって評価している。
なお、BCM格付におけるスクリーニングシートは、得点率の実績や国内外の動向、外部有識者(表2)の意見等を踏まえ、毎年度見直している。

4. BCM格付の活用事例

(1)企業の内部管理高度化への活用事例

ここでは、これまでBCM格付を取得した企業の中から、代表的な評価事例として、北陸地域のある医薬品製造販売会社について紹介する。
同社は数年前より、海外の取引先からBCPの作成を求められたことをきっかけにBCMに着手したが、受動的に作成したBCPはすぐに形骸化し、実際に工場内で事故が起きた際に適切に対応することができなかった。これが転機となり、同社は本格的にBCMに向き合うことを決意。その第一歩として、まずは自社のBCMにおける課題を明確化するために、BCM格付を利用した。
本格付を通じ、現行のBCPを見直す必要性を感じた同社は、DBJのグループ会社である(株)日本経済研究所のBCP策定支援サービスも受けつつ、より精緻なBCPを新たに策定。加えて、そのBCPの実効性を高めるため、全社規模の訓練も開始した。
このような取組みによって、従業員一人ひとりが有事の際の優先順位や判断プロセスを明確に認識したうえで自律的に行動できるようになった。実際に先般の能登半島地震においても、社長をはじめとする役員が一時的に不在であるなかでも、指揮系統がスムーズに機能し、事業停止を最小減に抑えることができたという。
そして先般、同社はかかる一連の取組みの検証として、再度格付を利用し、結果として初回利用時からランクアップも果たした。
(参考:DBJサステナブルソリューション部HP(https://www.dbj-sustainability-rating.jp/bcm/case/case06.html))
このように、内部管理高度化に向けたPDCAサイクル運用に、BCM格付を上手く活用し組み込んでいただくことで、企業の事業継続力の向上に役立てればと考えている。

(2)BCM格付クラブの開催

次に、BCM格付による直接的な価値提供ではないものの、それに付随する取組みとして、「BCM格付クラブ」について紹介する。
DBJでは、BCM格付を取得した企業に対し、国内で初となる危機管理担当者向けプラットフォームであるBCM格付クラブを毎年主催している。これは、複雑で相互に依存する多種多様なリスクを理解・管理・対応するための協議・共有を参加者同士で行うとともに、危機管理経営に関する組織や地域の境界を越えたネットワーキングのための場を提供するために、2012年から実施している取組みである。
直近2023年に開催したBCM格付クラブでは、BCM格付を取得した企業から、サプライヤーを含めたBCMの取組みについて講演いただいた他、BCMをいかに自社従業員に浸透させていくか、取引先や地域に波及させていくか、といった課題についてグループワークを実施し、多くの参加企業から好評をいただいた。
このように、BCMに関する情報共有や人脈構築のための場を提供することで、一企業の枠を超えたBCMへの取組みを他企業へと波及していきたいと考えている。

5. BCM格付の課題と今後について

これまで見てきたように、DBJはBCM格付という独自の金融商品を通して、企業の事業継続力強化を支援してきた。ここでは、本稿のまとめとして、実際に本格付を担当しているなかで感じた課題と、それを踏まえた今後について述べたいと思う。
BCM格付は、2. で述べた通り累計400件超の企業に対する実績があるものの、4. で述べた通り自社のPDCAサイクル運用に組み込んで活用するリピーター企業も多く、近年は新規の利用企業数が少ないため、前述のBCM格付クラブにおいてもその輪の広がりの鈍化を感じている。
DBJとしては、今後より多くの企業にBCM格付を利用いただくために、地域やサプライチェーン上の中核企業へのアプローチが重要だと考えており、足下ではそのような企業に対する紹介に注力しているほか、災害リスクやビジネス環境の変化に合わせたスクリーニングシートや評価目線の見直しなど、本格付をより良いものとすべく常に改善案を模索している。
また、世の中におけるBCM自体の普及についても、環境や健康経営といった他のサステナビリティ分野に比べ法規制や開示指針の動きが鈍く、企業がBCMの必要性に迫られないこともあり、まだまだ取組みが進んでいないと感じている。
そのようななか、繰り返しにはなるが、企業のサステナビリティを考えるうえでは、防災・危機管理経営は避けては通れないものであり、加えて環境経営や健康経営と一体となって進められるべきだという考えのもと、DBJではサステナビリティ評価認証融資を提供している。具体的には、例えば気候変動によるさまざまな影響が現実的に出始めているなかで、そのような異常気象等を踏まえた防災・BCMが必要となり(環境⇔BCMの接続)、また被災時に従業員を守る等のリスク管理がしっかりとした企業は、採用時にもそれが訴求力を発揮する(健康経営⇔BCMの接続)といったように、それぞれが三位一体となって初めて企業のサステナビリティ経営、ひいては持続可能な成長が実現すると考えている(図3)。

これらを踏まえ、今後はBCM格付を通じ幅広い地域や業界においてBCMの思想の普及や共助の枠組みの拡大に注力するとともに、環境や健康といった視点も織り交ぜながら、真に持続可能な社会の実現に貢献していきたい。

(注1)事業継続マネジメント(Business Continuity Management)の略。
(注2)一般に回復力・復元力と解釈されるが、ここでは、あらゆる危機的事象への社会・組織の対応力・回復力及び、それを契機により強靱な体質へと進化する力も含めた概念群を総合する言葉として用いている。
(注3)事業継続計画(Business Continuity Plan)の略。

著者プロフィール

松浦 拓美 (まつうら たくみ)

株式会社日本政策投資銀行サステナブルソリューション部 調査役(BCM格付主幹)

2017年に(株)日本政策投資銀行に入社。以降、主にヘルスケア業界、テレコム業界の法人営業や、東北地域における顧客深耕に従事。2023年10月より現職。これまでの業務経験を活かし、さまざまな企業とBCMを含むサステナビリティ全般に関する対話に取り組む。