明日を読む
グローバルサウスの動向が示す大国間競争の行方
2024年12-2025年1月号
「大国間競争」がトランプ政権初年の2017年12月公表の国家安全保障戦略で米国の大戦略となって以来、すでに7年になる。この競争はこれまで主に三つの領域で進んできた。
その一つは地政学の領域である。これはよく知られている。ロシアのウクライナ侵略戦争は三年目に入っている。北朝鮮は同盟国として兵員をウクライナ戦線に派兵している。中東では、昨年10月のハマスのテロ以来、イスラエルのガザ地域における軍事行動、さらにはレバノン南部に割拠するヒズブルラーへの攻撃が続き、イスラエルとイランもいつ本格的戦争に突入しないとも限らない。また、中国はすでに2010年代以来、南シナ海で力による現状変更を試みており、台湾に対しても、いつ、どのような現状変更の試みを仕掛けてくるか、わからない。こうした中、特に2022年以降、中国、ロシア、北朝鮮、イランの「ユーラシア枢軸」が急速に形成され、「アメリカの平和」に挑戦していることは明らかである。
もう一つの競争領域は経済安全保障である。ここには政策的系譜から見て、バイデン大統領の安全保障担当補佐官ジェーク・サリバンのいう国家安全保障に直接関わるAI、自動化、量子技術などの技術・産業領域、さらにこれを支える先端的な半導体技術・産業の優位性をいかに守るかという「小さい庭、高い塀」の問題と、中国への過剰依存、中国の経済的威圧、知的窃取、ダンピング輸出から自国の技術と産業、自国にとって死活的に重要なサプライチェーンをいかに守るかという「デリスキング(リスク低減)」の問題がある。この課題に応えるために、この5~6年、安全保障貿易管理、対内投資規制、技術移転・共同研究規制、エンティティ・リスト、対外投資規制など、「小さい庭、高い塀」をもっと大きく、もっと高くするためのトゥール・キットが整備・強化されてきた。また、これに対応し、中国もトゥール・キットを整備している。この相互作用はなお進行中である。
さらにもう一つの競争領域は「グローバルサウス」である。ここでは、先日のBRICS首脳会議にも見るように、新興国のBRICS参加が拡大し、ロシアのウクライナ侵略、イスラエルのガザ侵攻についても、日米欧の「先進国」とは違う行動をとる国が少なくない。
注目すべきは、こうした三つの競争領域、特に経済安全保障と「グローバルサウス」における競争が次第に連動、共振しつつあることである。
その一例がマレーシアである。マレーシアはこの7月、BRICS加盟を正式に申請した。マレーシア国民の多数派がイスラム教徒で、イスラエルのガザ侵攻と人道危機、さらにはウクライナと中東における米国の「ダブル・スタンダード」を見て、BRICS参加を決めたのだろう。その一方、マレーシアはこの4月に「国家半導体戦略」を発表し、半導体産業高度化のために250億リンギット(約8300億円)を投資すると発表した。また、アンワル・イブラヒム首相は「SEMICON東南アジア2024」の演説で、「より安全で強靱な半導体供給網の構築を助けるため、我々の国を半導体製造に最も中立的な場所として提供する。」と述べた。
マレーシアはすでに半導体輸出で世界第7位、半導体製造では世界トップ10位に入っている。半導体産業のさらなる高度化のために、インテル、アーム、インフィニオンなどの「先進国」企業はもちろん、中国企業の進出も歓迎だということである。実際、ファーウェイ傘下にあったxFusion Digital Technologiesはマレーシア企業のNationGateと提携してGPUサーバを組み立て、TongFu MicroelectronicsはAMDと合弁で新施設を建設し、RISC-Vプロセッサ企業のStarFive Technologyもデザインセンターを設立している。米国とEUはマレーシアがファーウェイと「5G」通信インフラ契約を結ぶリスクをすでに警告している。こういう警告を無視し、これからも自国を「半導体製造に最も中立的な場所」として売り込むことができるのか。「大国間競争」はなお非線形的に激化し、制御不能になることもありうると考えておく方がよい。