『日経研月報』特集より

可能性のタマゴで未来を切り開く ~大阪・関西万博を直前に迎えて~

2025年2-3月号

岡田 康伸 (おかだ やすのぶ)

電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 室長

1. はじめに

電力会社10社にて大阪・関西万博に電力館を出展することを意思決定し、電気事業連合会(以下、電事連)内に大阪・関西万博推進室(以下、推進室)を設置したのが2021年7月。以降3年半にわたってパビリオン出展準備を進めてきて、いよいよ開幕を直前にまで迎える段階となった。
本稿では、電力館の概要を紹介した後、これまでの電事連の取組みを振り返りながら、出展企画にあたっての紆余曲折など、私が学んだことや気づきをお伝えしたい。

2. 電事連と万博の歩み

電事連はこれまで日本で開催された万国博覧会へパビリオンを4回出展し、約1,920万人の来館者に、エネルギーの歴史やその時々の最新技術、未来の姿を伝えてきた。日本初の万博開催となった1970年大阪万博では「人類とエネルギー」をテーマに、人類が火を使い始めて以降のエネルギーとの関わりの展示や、引田天功氏によるマジックショーを開催した。関西電力美浜発電所から約170㎞先の万博会場へ初めて原子力の電気が送られたことも大きな話題となり、経済成長さなかの日本で、電源開発と電気の根源的価値への強い印象を残した。続く1985年つくば科学博のテーマは「エネルギーそして未来」。探査艇に乗って自然・化石・原子・宇宙などさまざまなエネルギーの世界を冒険するアトラクションは、多くの子どもたちに人気を博した。1990年大阪園芸博では、装飾に使われて間もなかった光ファイバー技術を紹介。光と音による壮大なショーを通じ、テーマである「Light&Life」を驚きと感動をもって伝えた。2005年愛・地球博の電力館のテーマは「Powerful Imagination」。電車型の乗り物に乗って宇宙の果てから地球、自然界を旅するアトラクションを提供した。また、パビリオンの前庭には、新エネルギーとして太陽光発電の屋根を設置し、ダムの流木チップや堆積物を再利用した路盤材を使用するなど、地球温暖化問題を踏まえた環境配慮の重要性を伝えた。

3. 今回の出展概要

5回目の出展となる今回、「電力館 可能性のタマゴたち」では、「エネルギーの可能性で未来を切り開き、いのち輝く社会の実現へ」をテーマに、2050年カーボンニュートラルのさらにその先を見据え、社会の基盤を支える電力業界ならではの視点で未来社会を描く。
電力館は、さまざまな形の平面で構成される「ボロノイ構造」を採用したタマゴ型の外観が特徴。シルバー色の膜は、未来に向けた可能性を表現するとともに、陽の光や空の色を取り込んで天候や時間帯によって多様に見え方を変化させ、自然や周囲の環境と調和する。
内部は、「プレショー」、「メインショー」、「ポストショー」の3部で構成され、メインショーは、未来を切り開くエネルギーの可能性を体験する「可能性エリア」と、それによって切り開かれるいのちの輝きを体感する「輝きエリア」の2つのエリアで構成される。来館者は、さまざまな色に光るタマゴ型デバイスを首から掛けて館内を巡り、タマゴと映像・空間の連動による新たな発見や好奇心を高める体験展示、大空間での光と音による没入型展示を通じ、未来におけるさまざまなエネルギーの可能性に出会うことができる。
来館者の動きとしてはこうだ。まずプレショーで、カーボンニュートラルの実現に向けて、たくさんの「エネルギーの可能性」を探すという、これから始まる体験を、映像とタマゴ型デバイスの連動で紹介する。来館者はこのエリアで、パビリオンの世界観を感じ、期待感を高めていく。エネルギーの可能性をともに探すタマゴと出会った後は、2階のメインショーへ。「可能性エリア」では、未来を切り開く可能性を持つ約30のエネルギーを展示する。電力館の展示の特徴は、エネルギーの特性や面白さにフォーカスし、ゲーム要素を取り入れている点。映像を見るだけでなく、来館者が全身を使って体験することで、楽しさや驚きと、気づきや学びの両方を持ち帰ってほしいと考えている。

「核融合」の展示では、モーションキャプチャーセンサーによって手の動きと卓上の映像が連動する。卓上に投影された、原子核に見立てた光る球をタマゴ型デバイスにくっつける(融合させる)体験を通じ、反発し合う2つの原子核をうまく融合できた時に膨大なエネルギーが生まれる“核融合の原理”を体感できる。卓上で光の球を集める動作は大人でも意外に難しく、つい夢中になってしまう。また、「無線給電」の展示は、目の前に次々と映し出される家電や車など電気で動くものに対して、離れたところから無線で電気を発射して動かすシューティング型の体験とした。さまざまな物へ無線で給電がなされる便利な未来を、ゲームによって楽しみながら体感する。このほかに、潮流発電、振動力発電、直流送電などの展示を予定している。
さまざまな可能性を体験した後は、それらの可能性によって切り開かれる、いのちの輝きを体感できる「輝きエリア」へ進む。ここでは、大空間の中に立体的に配置した無数のLEDによる光や音と、来館者の持つタマゴ型デバイスが連動して没入型展示を体感する。最後のポストショーでは、図鑑をコンセプトとした空間での実物・パネル展示を通じ、メインショーの体験を振り返り、実は身近なところにもたくさんのエネルギーの可能性があることを実感できる。

4. 得られた気づきと学び

ここまで電力館の概要を紹介してきたが、ここからは、これまでの取組みを振り返りながら、得られた気づきや学びをお伝えしたい。というのも、私の出向元の会社をはじめ、電事連の内外で電力館の取組み状況について説明すると、たいていは「楽しそうだね」と言われる。この「楽しそうだね」には多くの場合「楽をしている」、「遊んでいる」といった皮肉が含まれていると感じるが、実際には楽しいことばかりではなく、苦しみや悩み、失敗の連続で、眠れない夜も多かったのだ。そこで、苦悩や失敗も詳らかにしながら、そこから得られた気づきや学びを共有したい。
この3年半の間に私が得た気づき、学びは、①物事は計画通りに進まない、②コミュニケーションの難しさと大切さ、③コラボレーションは容易ではない、ということだ。至極当たり前のことだが、実際はこうだ。
一つ目の「物事は計画通りに進まない」ことの最大の出来事は電力館建設パートナーの選定だった。推進室発足後、電力館が訴求するテーマ等を決めて広告代理店を選定し、2022年秋には基本計画を策定。ここまでは順調だった。
ところがその年の初め頃から建築資機材のインフレが一気に加速したことで、ゼネコンの入札辞退が相次ぎ、結局、当初想定していた予算をはるかにオーバーする札しか入ってこなかった。
設計変更等によるコストダウンを行って、何とか大和ハウス工業様から予算に見合うプランをいただくことができたが、入札不調以降の1か月間、パビリオンのコンセプトである「可能性のタマゴ」を体現するタマゴ型の建物をあきらめて、コストミニマムとなる真四角のプレハブ建物とする案が浮上し、電事連内でも真四角の建物にファサードとしてタマゴを付ければいいじゃないかという声が出始め、あれこれと考えて眠れない日々が続いた。
建設業界を取り巻く状況分析が甘かったことや、インフレ想定を誤ったことが大きな反省点である。ただし、入札不調は、電力館だけではなく、ほぼ全てのパビリオン出展者が直面した課題であり、容易に回避できるものではなかったと思う。建築資機材のインフレについても何とかゼネコンに対応してもらえるのではと楽観し過ぎていた嫌いはあるが、実際には基本設計をもとに建設費用を積算しないと分からないことも多く、事前に手を打つことは困難であった。
ただ、未来を見通すことができないのは当たり前のことであり、悲観的、保守的にプランニングしなければ痛い目にあうことをこのタイミングで経験したことが、その後の展示資機材や人件費の高騰等への対応に際して、大きく役に立った。
二つ目の「コミュニケーションの難しさと大切さ」は、電力会社での実務経験でも感じていたことであるが、これまでとは違うレベルで認識することになった。特に、パビリオン展示体験の面白さや楽しさを言語化して伝えることは難しいと思っていたが、実際に経験してみて、ここまで伝わらないものかと改めて痛感した。
コミュニケーションの「難しさ」をまず体験したのが、博覧会協会に提出するパビリオン出展申込書の電事連内説明であった。展示内容が練りこめていない抽象度の高いプランを説明する苦しさは認識していたものの、案の定、「何を言っているのかさっぱり分からない」と言われることになった。詳細が決まっていない段階で、どんな展示をしてどのような楽しさ、面白さを体験してもらうのかを具体的に理解してもらうことは相当に難易度が高いと理解していたが、だからこそもっと伝わるための工夫をして説明できなかったかと反省している。2024年9月に行ったメディア向け説明会においても、展示や体験の概要を動画やイラスト、プレス文で丁寧に説明したが、記者にはなかなか伝わらず、記者から多くの質問を受けることとなった。今では「プディングの味は食べてみないと分からない」ということわざが示す通り、結局は体験しなければ、面白さや楽しさは本質的には理解できないと感じている。実際私も2021年のドバイ万博視察前にHPやYouTubeを通じて、パビリオン展示内容をチェックしていたが、映像では何がどのように面白いのかが理解できず、実際に行って体験して初めて胸が高鳴るようなドキドキした感動を味わうことができた。これまでどの万博も会期前半は低調で、後半になってから盛り上がるという実績があるが、これは、結局のところ、パビリオンで実体験した来館者のクチコミなどが伝播してはじめて面白さが伝わるからであろう。ただ、「パビリオンは体験しないと分からないものだ」と言って、電力館の魅力発信をあきらめるのではなく、こうした難しさを認識したうえで、これからも創意工夫を凝らして来館者に訴求していきたい。
コミュニケーションの難しさもさることながら、その「大切さ」は同じパビリオン出展者との情報共有を通じて実感した。愛・地球博から20年が経過し、万博経験者がほとんどいないなか、過去の出展時の資料を紐解きながら手探り状態で検討を進める過程で、同じ出展者仲間と課題を共有し、情報交換できたことは本当にありがたかった。
他の出展者と情報交換することの大切さを実感した私は、初期の段階で、パビリオン出展者の交流の場を拡大しようと、The Expo Boostersと称する場を設けて、ネットワーキングし、コミュニケーションの輪を拡げていくことに取り組んだ。2023年10月から6回開催し、パビリオン出展者に加えて、協賛企業や公式参加国などを含め、至近では130名超の参加者が集う会合になった結果をみても、万博関係者が積極的なコミュニケーションを求めていたのではないかと思っている。
パビリオン出展に関わるさまざまな情報が関係者の間に出回るが、どの情報が正しいのかを判断するには、やはり関係者に直接会って、話を聞き出して、自分自身で判断するほかない。スタッフの時給水準一つとっても、どのパビリオンがいくらで求人しているか等、現時点のファクトは確認できたとしても、今後公式参加国がどれくらいの規模と時給水準で募集するかや、公式参加国が募集を開始すると語学ができるスタッフの時給水準がどれくらいになるのか等については推測するしかない。さまざまな関係者の思惑もあり、「こうなって欲しい」という願望が事実のように出回るなど、先行きの予想を立てるにあたっての情報があやふやだったことも多かった。しかし自ら博覧会協会をはじめ、公式参加国領事館や民間パビリオン出展者、協賛企業や各種万博プログラム参加者など、多様な関係者に会って、事実と予想、思いなどを区別して情報収集することで、状況を正しく分析できたと思っている。今後も関係者と直接、丁寧なコミュニケーションを重ねて、準備を進めていきたい。
三つ目の気づき、学びは「コラボレーションは容易ではない」ということ。私は2021年7月に電事連に出向する前、関西電力経営企画室イノベーションラボにて、K4Venturesというコーポレートベンチャーキャビタル事務局、イノベーション人材育成、オープンイノベーション拠点の企画検討、起業アイデアコンテスト等の業務を行ってきた。
こうした経験を通じて、電力館出展にあたっては、電力会社や広告代理店のメンバーに閉じることなく、外部のパートナーと一緒になって企画、展示、運営を行うオープンイノベーションのような取組みを行いたいと考え、未来を切り開くエネルギーの可能性を研究している大学研究室やスタートアップ、研究機関などを訪問し、Win-Winとなる展示協業の実現を探ってきた。
今回の電力館には屋外ステージを設けて、電力館のテーマ、コンセプトに沿ったイベントを開催する。この屋外ステージでは、外部のパートナーと一緒になってイベントを開催したいと思っていた。当初は外部パートナーと電力館との協業は大企業とスタートアップとの協業に比べ、簡単だと思い込んでいたが、いざ取り組んでみると、各々にさまざまな思いがあって、われわれ電力館の思いと合致しないケースも多かった。
展示協業よりも、イベント共催の方がコラボは容易だと思っていたが、これも実際には逆だった。「電力館屋外ステージで一緒にイベントをやりませんか」と大学や専門学校、NPO法人や企業などに持ち掛けても、「なぜ、われわれが電力館でイベントを開催しなければならないのか」と否定されることも少なくなかった。私が万博会場でイベントを行うことの魅力や楽しさを伝えきれていなかったことが要因だと思うが、私の提案が入口からシャットダウンされることも多かった。
電力館出展準備にあたってさまざまな方と巡り合ったが、「面白がる力」は人によってまちまちだ。万博に関わる人は「面白がる力」が強く、なんでも楽しもうというポリシーを持っている方が多いが、「面白がる力」が弱い人にとっては、イベントの共催を持ちかけられても面倒にしか思えなかったのかもしれない。今後は、「面白がる力」の強い外部パートナーと一緒になって、電力館の屋外ステージで電力館を盛り上げるイベントを企画、共催していきたい。

5. 最後に

会期中にはさまざまな問題が発生し、対応に苦慮することになると思うが、こうした苦労や悩みも含め、全力で万博を楽しみたいと思っている。電力館員、運営や展示に関わる関係者全員が楽しまないことには、来館者の皆さまに楽しんでもらえないと思っている。読者の皆さまが大阪・関西万博、そして電力館にお越しになり、展示体験をドキドキ、ワクワク、心から楽しんでいただけるように準備を進めてまいりたい。

https://www.fepc.or.jp/sp/expo2025/

著者プロフィール

岡田 康伸 (おかだ やすのぶ)

電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 室長

1993年(平成5)4月 関西電力株式会社 入社
2007年(平成19)6月 秘書室 マネジャー
2009年(平成21)6月 グループ経営推進本部附、(株)かんでんCSフォーラム 出向
2011年(平成23)12月 姫路支店 支店長室 人材活性化グループ チーフマネジャー
2013年(平成25)6月 秘書室 秘書役
2016年(平成28)6月 経営企画室 経営企画グループ マネジャー
2018年(平成30)6月 経営企画室 経営企画グループ チーフマネジャー
2019年(令和元)7月 経営企画室 イノベーションラボ、イノベーション推進グループ チーフマネジャー、火力事業本部火力企画部門地域プロジェクト推進グループ、マネジャー 併任
2021年(令和3)7月 広報室附 電気事業連合会 大阪・関西万博推進室 室長