海外の現場から

2025年 第二次トランプ政権の幕開け

2025年2-3月号

下澤 範久 (しもざわ のりひさ)

DBJ Americas Inc. CEO

2024年の米国は「大統領選」フィーバーで幕を閉じた。11月5日投票日の翌日には大方の予想に反してあっさりと次期大統領の大勢が判明、同月中旬には議会上下両院とも共和党が多数派を占める「トライフェクタ」という結果が見えた。47代の大統領の中でも返り咲きの勝利は二人目という、トランプ氏の圧勝だった。
まだ12月末の執筆時点では見えないが、新年に入り1月20日にトランプ新政権が誕生する。今の欧米先進国に共通の風潮かとも思うが、大統領選の結果は移民流入と物価高を背景とした国民の生活環境への不満の表れにも映る。ワシントンD.C.の流儀を理解したトランプ氏と政権移行チームは、第一期と異なり矢継ぎ早に主要閣僚級ポストを発表し政策方針を打ち出している。指名候補の中には議会承認が危ぶまれるスキャンダラスな人物も含まれるが、経済・産業関連だけでも、個人所得税や法人税の更なる減税、連邦と州政府に権限が重複するような金融や教育などの規制簡素化や撤廃、暗号通貨やAI開発などイノベーションに関する規制撤廃と開発促進など、期待先行もあり米国株は軒並み上昇を続けている。市場では、移民という安価な労働力供給の減少による経済成長の鈍化や、関税によるインフレ懸念などの批判の声をも打ち消す期待感がにじみ出ている。
第二次トランプ政権は主に4つの派閥から構成される。超保守系シンクタンクのヘリテージ財団を中心とするポピュリスト派閥、キリスト教福音派の影響を受ける文化保守派(ナショナリスト)、シリコンバレーのテクノ・リベラリアンそして伝統的な共和党保守派である。移民政策や文化政策では前の2派閥、規制緩和や財政政策では後ろの2派閥が近いが、文化政策では文化保守派とテクノ・リベラリアンが対立し、国際貿易や外交政策は、孤立主義を主張するポピュリストと協調路線を唱える共和党保守派が真っ向から対立している。いずれの中核政策にしても足並みを揃えきれない、イデオロギーがバラバラの閣僚級人事を行いながら、トランプ新大統領が移民政策や経済対策など目玉の内政に関して、どのような舵を取るか注目される。
また2025年の外交に関しては、ウクライナ侵攻、朝鮮半島、台湾有事と世界的課題が目白押しだが、イスラエル・シリアを中心とした中東情勢も見逃せない。イスラエルとハマスの停戦が見通しにくい中、シリアのアサド独裁政権が崩壊しイランの影響力が低下するものの、イスラエル北部国境地帯が不安定になる可能性もある。こうした中、トランプ新大統領は「米国第一主義」を掲げ、中東への直接的な軍事介入には慎重な姿勢を貫いているが、外交介入はまだわからない。国務長官指名のマルコ・ルビオ氏をはじめ親イスラエル色が強い政権ではあるものの一辺倒とも言い切れず、大統領上級顧問の中東担当に娘の義父であるマサド・ブーロス氏を起用した。ブーロス氏は「親族の起用」で注目されているものの、レバノン系米国人の実業家でありアラブ側のコネクションとして、パレスチナ自治政府側のパイプ役にも期待される。
「ディール(取引)外交」とアピールを好むトランプ新大統領にとって、イスラエルとアラブ諸国間の和平協定はノーベル平和賞への最短距離とも揶揄されるが、イランの孤立・弱体化を進め、イスラエルとの強固な関係を発展させる絶好の戦略的機会でもある。
もはや「予測不能なショーマン」ではなく返り咲きの大統領に対しては、確固たる判断軸に加えて臨機応変に対応できる柔軟な交渉力も求められるようである。これは不確実性が強調される昨今の政治の世界だけでなく、米国市場での活躍を狙う我々日系企業にとっても共通の課題かもしれない。

著者プロフィール

下澤 範久 (しもざわ のりひさ)

DBJ Americas Inc. CEO