地域の現場から
異形の街「難波」
2025年2-3月号
関西国際空港や高野山の玄関口となる南海難波駅。先日、この駅の3階切符売場で外国人に声を掛けられた。「ラピートαとは何か?」というなかなかの質問である。拙い英語で何とか答えると、その頃には私の前に外国人の行列が出来ていた。なるほど、南海難波駅の3階切符売場では、日本人は既にマイノリティであるらしい。
少し街中を歩いてみる。戎橋近辺は概ね外国人に占拠されており、日本人は「グリ下(グリコの看板下)」に集まる若者のみ。日本人がここに来るのは、もはや阪神優勝のときくらいだろう(しばらくなさそうだが)。心斎橋エリアにも日本人はいない。喧騒を離れようと少し離れた難波八坂神社に向かうが、やはり一組の老夫婦以外は外国人であった。
オーバーツーリズムを指摘したい訳ではない。というより、「難波」周辺がオーバーツーリズムになっているという話は、あまり聞こえてこない。京都の町屋や大阪城公園のような、伝統を残さなければいけない場所とは違い、「難波」周辺は特段の制約がなく、「保全する」という感覚が必要ではない。また、住民の生活への配慮が必要ということでもない。結果、主導権はいともあっさり外国人に移っており、日本人が消え去ったというだけのことのようだ。
図1は、心斎橋エリアにおける店舗数を、コロナ前後で比較したものである。ドラッグストアやファストファッションは既に頭打ちか減少傾向にあり、ラグジュアリー(高級ブランド店)やリユース店、アウトドア・スポーツ店が増加している。どうやら、何の制約もなく外国人向けの商店街を創ると、こういうことになるらしい。図らずも心斎橋エリアは、あの狭い領域において、外国人の消費性向や行動形態、さらには、国内外の購買力の差を如実に示す場となっている。
「未来は既にここにある。ただ均等に行きわたっていないだけだ」アメリカのSF作家、ウィリアム・ギブソンの言葉である。制約なく外国人が流れ込む「難波」という街は、日本の都市の未来の姿を示している可能性すらある。そういえば、eスポーツのスタジアムやカジノスクールも「難波」にある。関西地域は、万博は半年で350万人、大阪IRは年間で600万人の外国人が訪れると言われていることから、「難波」の外国人比率は今後さらに上昇し、さらに街が未来に向けて変貌していく。皆様、是非一度「難波」に来て、この異形の街を実感して頂きたい。まだかろうじて、日本語が通用するうちに。