『日経研月報』特集より

地域脱炭素と活性化の両立に向けて~脱炭素先行地域の経験から~

2025年4-5月号

〈講 師〉 金井 司 (かない つかさ)

三井住友信託銀行株式会社 フェロー役員

〈講 師〉 新留 博子 (にいどめ ひろこ)

大阪ガス株式会社エナジーソリューション事業部環境・地域共創部 副課長

〈モデレーター〉 竹ケ原 啓介 (たけがはら けいすけ)

政策研究大学院大学 教授

(本稿は、2024年12月19日に東京で開催された講演会(オンラインWebセミナー)の要旨を事務局にて取りまとめたものである。)
1. はじめに
2. 地域社会の持続可能な脱炭素化のためのDaigasグループの取組み
3. 弊社の地域エコシステム構築に向けた取組み ~地域脱炭素を活性化する要素とは?~
4. ディスカッション

1. はじめに

竹ケ原 脱炭素社会の実現に向けて、2020~25年を重点期間とする「脱炭素ロードマップ」が策定されています。その一環として、全国に100箇所の「脱炭素先行地域」を設定し、ドミノ倒しの起点とすることが目指されています。先行地域では、2030年までに民生部門の脱炭素を実現するとともに、地方創生・地域活性化の両立を図るモデル性のある取組みが求められています。
現在、80を超える自治体が選定され、さらに149の自治体が「重点対策加速化事業」に参加しています。脱炭素に向けた取組みは、全国各地で進んでいると捉えてよろしいかと思います。小規模自治体におけるマンパワーやノウハウ不足、財源制約等さまざまな課題はありますが、各地で地産地消型のエネルギー活用の努力が続けられており、政府も2020~25年の集中期間に続き、2026~30年を「実行に集中する期間」として、さらに取組みを進める方針です。
こうした背景のもと、地域金融機関も地域資源を活用し、2050年のカーボンニュートラルに向けた地域経済の移行を推進しています。これらの動きを掛け合わせることで、地域経済の脱炭素化を進める新たな可能性が模索されています。
今回は、自治体の脱炭素戦略の策定を最前線でサポートされている大阪ガスの新留さん、地域金融を包括的にサポートされている三井住友信託銀行の金井さんにご登壇いただき、自治体の脱炭素戦略や地域金融の役割等について議論し、今後の方向性を探っていきたいと思います。

2. 地域社会の持続可能な脱炭素化のためのDaigasグループの取組み

新留 当社は関西を中心にエネルギー事業を展開し、海外市場や不動産などにも事業領域を拡大しています。現在、約1,000万件のお客様との接点を持っています。当社は2050年カーボンニュートラル実現を目指していますが、その手前の2040年代に描く未来が、再生可能エネルギーやe-メタン、水素などの新エネルギーを活用し、分散型発電やエネルギーマネジメントを通じたカーボンニュートラルの普及が進んだ日常です。お客様や社会は、特に大きな転換点を迎えるということではなく、気が付いたらこのようなカーボンニュートラルな日常になっていたというシームレスな移行になっていくのではないかと思います。当社は、それを支えるためのソリューションをご提供したいと考えています。都市ガス原料の脱炭素化や再生可能エネルギーの活用、水素供給などを通じて、適材適所のエネルギー利用を推進し、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを目指します。
そこで鍵となるのが「e-メタン」です。大気中に放出されるCO2を再利用し、再生可能エネルギーから生成される水素と合成することで生成されるe-メタンは、CO2を媒体として水素を運ぶ水素キャリアの1つです。都市ガスとほぼ同じ成分のため、都市ガスの既存インフラやお客さま先の燃焼機器をそのまま使えるなどのメリットがあり、シームレスにカーボンニュートラルな暮らしとビジネスに移行することが可能です。そのメリットを特に大きく活かせるのが、熱利用分野です。日本の民生・産業部門のエネルギー消費量の約6割が熱による消費ですが、熱の利用は電化による脱炭素化が困難な分野といわれています。e-メタンによるカーボンニュートラル化は、石炭や石油の利用が多い日本において特に重要であり、まずはこれらを天然ガスへ転換し、将来的なe-メタンの活用に備えることが必要であると考えています。
電源の脱炭素化に関しては、2030年に向けて、500万キロワットの再生可能エネルギーの普及と、当社の電源の約半分を再生可能エネルギーにするという目標を掲げています。そのため、日本全国でさまざまなパートナーとともに幅広い再生可能エネルギーの普及を目指し、地域単位でエネルギーの地産地消を推進しています。具体的には、バイオガス発生器やガスコージェネレーションシステム(以下、ガスコージェネ)、オンサイトPPAなどを活用し、地域の課題解決と効率的なエネルギー利用に取り組んでいます。
脱炭素とまちづくりを掛け合わせた事例として、大阪市と神戸市の脱炭素先行地域をご紹介します。大阪市は、第4回脱炭素先行地域に選定されており、当社は共同提案者である(一社)御堂筋まちづくりネットワークの代表理事として参画しています。大阪の北と南を結ぶ幅44メートルの大幹線道路である「御堂筋」を中心に、人中心のカーボンニュートラルストリートにするコンセプトのもとで、脱炭素化に取り組んでいます。万博を契機に国際的な発信を行い、ビジネス街区としての価値向上を目指しています。当社は、大阪市内で都市ガスのカーボンニュートラル化に向けたメタネーション(e-メタンの製造・供給)の実証に取り組んでいますが、社会実装は2030年以降の計画です。そのため、2030年までの先行地域期間中は、ガス版のグリーン電力証書である「クリーンガス証書」を活用し、ガスコージェネで使用するガスをオフセットし、電気と熱のカーボンニュートラル化を目指しています(図1)。

神戸市は、第5回で選定されました。当社はエネルギー事業者として共同提案者になっています。対象エリアは「神戸医療産業都市」です。阪神・淡路大震災を契機に、復興プロジェクトとして神戸経済の活性化等を目的に1998年に発足し、今では災害拠点病院等が立地する日本最大級のメディカル・バイオクラスターになっています。このエリアの脱炭素化に向けて、再エネ電源の導入量拡大や、内航船をEV 化し、その蓄電池を災害時に医療機関や避難所のバックアップ電源として活用する取組みを進めていきます。当社は、省エネ・再エネ設備の導入支援や地産の環境価値を活用した電力供給を行い、さらに、特例需要場所制度等を活用することで、都心部での再エネ導入のハードルを克服する取組みもサポートしています。
以上のような取組みを通じ、当社は地域のエネルギー事業者として、2030年の脱炭素先行地域の実現を目指しています。

3. 弊社の地域エコシステム構築に向けた取組み~地域脱炭素を活性化する要素とは?~

金井 金融機関として、地域脱炭素の取組みをどのように支援し、全体を巻き込む役割を果たすかについてご説明します。
当社の事業戦略の1つに「地域エコシステムの構築」があります。金融機関はものをつくる業態ではありませんが、お金を媒体として地域全体を束ねる役割を担っていますので、当社は信託の持つ多様な機能を活かして効率的に資金を循環させることを通じ、貢献していきたいと考えています。
全国各地で脱炭素に向けた取組みを進めていますが、苫小牧や仙台の脱炭素先行地域案件には、当社は共同提案者として参画しています。
具体的な取組みをいくつかご紹介します。最初は北海道の事例です。当社は、北海道地方環境事務所と「ESG地域金融連携協定」を締結し、北海道全域における脱炭素を側面支援する取組みを展開しています。地方の主体となっている信用金庫を中心にセミナー開催をし、また自治体と信用金庫との三者連携で具体的なプロジェクトを推進するなど、広大なエリア特性を活かした取組みを実施しています。次の事例は小田原市です。エネルギーの地産地消事業が地域のステークホルダーに与える利益を分析するため、当社は、小田原市・横浜銀行・浜銀総研と連携し、ロジックモデルを活用したインパクト評価を実施しました。さらにこの取組みの進捗管理に必要なKPIを洗い出し、市に提案しました。市はこれをインパクトレポートとして作成し、市のHPで公開しています。次に、京都府で構築した京都コンソーシアムの事例をご紹介します。当社は、京都府、府内の中小企業、地域金融機関の3者の連携スキームの構築を支援しました。部分最適ではなく全体最適を目指し、京都府の政策と地域金融機関の融資やコンサルティングを同期化させ、府内の中小企業の脱炭素促進を支援しています。次の取組事例は北九州市です。同市は、地域脱炭素プロジェクトとして「響灘臨海エリア」を中心とした水素・アンモニアの商用サプライチェーン構築に向けた実現可能性の調査を実施しています。当社はこのプロジェクトに金融機関として参画するだけでなく、グリーン水素の製造・供給に関して科学的知見を活かしながら、事業性の検証や将来的な展開を支援しています。
自治体に対する特殊な取組みとして、サーキュラーエコノミーの取組みをご紹介します。サーキュラーエコノミーを推進しなければ脱炭素は実現できないといわれているなかで、それを地域においてどのように推進するかを考えなければなりません。そこで、化石燃料の削減や地域の強靱化を目指す取組みとして、ハーチ社と連携し、「サーキュラーシティ(循環都市)移行ガイド」を作成し、2023年10月にリリースしました。このガイドを活用し、自治体のサーキュラーエコノミー推進を支援し、最終的に脱炭素の実現を目指しています。
また、当社は、地域におけるカーボンニュートラル推進のため、スタートアップ企業の育成支援が重要と考え、レジェンド・パートナーズとNES株式会社を共同設立し、ファンドを通じた資金供給や起業家教育、スタートアップ支援を実施しています。また、地域発ベンチャーの多くが大学を基点としていることから、複数の大学とも連携しています。
こうした取組みの原動力になっている、弊社の組織についてご紹介します。当社には、テクノロジー・ベースド・ファイナンスチーム(以下、TBFチーム)という博士や修士の資格を持つメンバーで構成された理系専門部隊があり、エネルギー、マテリアル、サイエンス、インフラ、政策などを横断する専門家など約20名が所属しています。このチームは、事業開発やイノベーション、トランジションの過程で資金を適切に回すための新しいバリューチェーンを構築する役割を担い、スタートアップ支援や脱炭素推進を含む多くの取組みを主体的に推進しています。
以降で、地域脱炭素を活性化する要素について考察してみたいと思います。
先日北陸で開催されたあるセミナーに参加し、先進的な中堅企業が自社の脱炭素を超えた先進的な取組みを進めていることに感銘を受けました。脱炭素は、省エネや再エネ導入だけでなく、原料の転換や熱利用、水素活用など、サーキュラーエコノミーの視点が重要ですが、地域や中小企業でも先端的な取組みがすでにあったのです。これらの企業は、地域脱炭素の中心的な役割を担う「オーケストラ企業」としての可能性を持っていると感じました。
オーケストラ企業が地域脱炭素を効果的に推進するためには、活動の地域に対する社会的、環境的、経済的なインパクトを包括的に把握する手段が必要です。こうした観点からTBFチームは、複数の自治体やスマートシティプロジェクトにおいて、科学的知見を踏まえた「ロジックモデル」を作成し、アクティビティからアウトプット、アウトカム、最終的なインパクトまでの連鎖を時系列で分析しています。このモデルを活用することで、取組みが誰にどのような利益をもたらすかが明確になり、ステークホルダーと連携して作成する過程で合意形成が進み、推進の主体的な役割を果たす意識が醸成されていくことが期待できるからです。さらに、このモデルは取組みの成果をKPIの設定を通じて明確化し、進捗管理やガバナンスのあり方を導き出せる点が非常に効果的であると考えています(図2)。

また、当社は東京大学未来ビジョン研究センターの「COI-NEXT(共創の場形成支援プログラム)」に参画しています。このプラットフォームは、産・官・学・金が連携し、ライフサイクルマネジメントや情報基盤、テクノロジーなどの要素を深掘りした理論的枠組「“Co-JUNKAN”プラットフォーム」を構築しています。このようなモデルをどの地域でも適用可能な形で整備しておくことが、地域脱炭素やサーキュラーエコノミー、さらにはゼロカーボンを超えた「ビヨンド・ゼロカーボン」に向けて非常に重要な要素だと考えています。
中小企業の脱炭素推進において地域金融機関の役割が重要であることは、環境省や金融庁でも共通認識です。地域金融機関は、中小企業に対し、ファイナンスだけでなく幅広いサービスをワンストップで提供できる点が特徴であり、その役割は非常に大きいと思います。環境省のガイドブック「温室効果ガス排出削減等指針に沿った取組のすすめ~中小事業者版~」に金融機関による具体的な脱炭素化支援メニューが記載されています。多くの地域でこれらを活用することによって、中小企業を中心とした地域脱炭素の推進が可能になると考えます。

4. ディスカッション

竹ケ原 近年の地域脱炭素の取組みを振り返り、得られた成果や見えてきた課題に関して、ご意見をお聞かせください。
新留 多くの課題があると認識しています。特に、地域課題の発掘やエリア特性に基づく合意形成が重要であり、脱炭素先行地域においては、これがコンセプト構築につながります。まだ日本では、脱炭素だけではポジティブな合意形成が充分にできない印象があります。ポジティブな合意のためには「地域のありたい姿」が必要で、金井さんからご説明のあった「ロジックモデル」のような論理的なアプローチは非常に有効だと感じました。
竹ケ原 合意形成がボトルネックになることが多いですが、「脱炭素」だけを前面に出すと、多くの人を巻き込むのが難しくなるため、その地域ならではの設計図が必要です。その設計図をどう作るかについては、金井さんよりロジックモデルが有効であるとの示唆がありました。新留さんから、地域のありたい姿を明確にしたうえでの合意形成が重要だとの指摘がありました。これに対して金井さんからご意見をいただけますか。
金井 100%同感です。合意形成は、地域脱炭素の取組みでは最も重要な課題です。地域ごとに最適なソリューションは異なりますが、意思決定のプロセスや方法論は共有可能ですので、ロジックモデルやセオリー・オブ・チェンジといったツールを活用して、合意形成を進める手法を体系化し、どの地域でも適用できる形で提供することが有効だと考えます。
竹ケ原 新留さんからご説明のあった大阪市や神戸市の完成形だけを見ると、合意形成の過程や苦労が見えにくいという課題があります。大阪市では、企業が揃い方向性が統一されており、神戸市では医療都市というコンセプトを活かした取組みが進んでいます。各地域でどのように合意形成が進み、地域特有の脱炭素モデルが構築されたのかを掘り下げる必要があります。このことにより、他の地域が参考にできる方法論を見出すことが重要です。新留さんから、これらのプロジェクトの詳細をお話しいただけますか。
新留 両都市とも、地域の特性や背景に基づいたコンセプトを導き出すために、多大な努力と試行錯誤が行われたことが特徴です。大阪では、御堂筋エリアの再開発に伴い、テナントビルの競争力を高め、企業を誘致する必要性が共通認識としてありました。この文脈に基づいたコンセプトが、地域全体の合意形成を促進しましたが、当初は2割程度の賛同しか得られず、大阪市のご担当が各企業を何度も訪問し説明を重ねた結果、約8割の合意形成に至りました。神戸市では、震災から30年を迎えるなかで、レジリエンスをテーマにしたコンセプトが採用され、これが合意形成の鍵となりました。土地の文脈に基づき、脱炭素を「街や命を守る手段」として位置づけたことで、地域住民や需要家の理解と合意を得ることができました。約130の需要家のうち7割以上が合意に至ったのは、神戸市のご担当者が丁寧にコミュニケーションを重ねた結果であり、その努力は感動的なものでした。
竹ケ原 震災の経験を基に、レジリエンスを真剣に考えることが根本にあり、脱炭素はある意味でその手段であるという一種の割り切りがないと、真の合意形成は難しいと理解しました。2030年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を最優先として打ち出すと、政策担当者が一生懸命計画を立てても関係者がそれを自分事として捉えるのが難しい場合はあるのでしょうか。
金井 それはあります。単にSDGsの目標を掲げるだけでは不十分ですので、そういうときこそロジックモデルのようなツールの活用が有効です。脱炭素以外にも多様なアウトカムが可視化され、誰にどのようなメリットがあるのかが明確になり、取組みにかかるコスト負担の意義が理解され、関係者が協力しやすくなります。その結果、通常は関与しないようなステークホルダーもプロジェクトに参画する可能性が高まります。さらに発展形として、キーとなるアクターが関わる領域ごとに作成したロジックモデルを統合して全体像を描き、自治体はその全体像を把握しつつ、各アクターは自分のロジックモデルを推進すればよいという仕組みも考えられます。複数のアクターが協力することで、より大きなインパクト(コレクティブインパクト)を生み出すという考え方が重要であり、その連携を設計図として示すプロセスが鍵となります。
竹ケ原 コレクティブインパクトが描けたとして、そのインパクトを中小企業経営者の方の自分事にしてもらうことは、難しいのではないでしょうか。
新留 中小企業の方であっても、コレクティブインパクトのビジョンが共有されると、各自が自分の役割を考え始め一定の合意が得られるようになります。さらに経済合理性を超えるメリットが示されれば、賛同が広がります。例えば、御堂筋では最新のZEB Readyビルが高い入居率を誇っています。魅力的な職場環境が人材確保に有効なようで、テナント企業にとっては、家賃を上回るメリットがある、という事例です。神戸では、エネルギー事業の収益をNPO施設の災害対策強化に活用し、その結果、NPO側も被災者受け入れを提案するなど、裨益の循環が生まれています。こうした個別の取組みが面として広がり、小さなインパクトが連鎖的に加速していく現象が現場で感じられます
竹ケ原 コレクティブインパクトのビジョンの共有と、地域における所得の循環の強化へと接続することが重要と理解しました。コレクティブインパクトについて議論をする場について、プラットフォームが重要だという一般論はあるのですが、上手く機能させるポイントはありますか。
金井 地域金融機関が関与して場や状況を整え、最終的には自治体と地域が連携して取り組むことが望ましいと考えています。場の設定には、地域に密着したNPOやスタートアップ、企業の巻き込みも重要でしょう。大企業については、地域に対する配慮が十分でないと見える場合があり、その点に留意する必要がありますが、脱炭素には技術的なイノベーションが不可欠であり、地域企業だけではできないようなイノベーションが必要なケースでは大企業が協力する必要があります。その際、金融機関がサプライチェーンを繋ぐ役割を果たすことが重要で、メガバンクから地域金融機関、頂点企業から末端のサプライヤーという2つのエコシステムを有機的に連携させることが今後求められると考えます。
竹ケ原 自治体によっては、意識の高い首長がいても、スタッフ不足によりコンセプト設計が進まないという課題もあります。このマンパワーの問題についてどのように対応すべきか、お二人の意見をお聞かせください。
新留 フレームワークやマニュアル化によって試行錯誤の負担を軽減することが挙げられます。また、商工会議所や協議会などの組織との連携も有効な手段として考えられます。
金井 先程のロジックモデルについては、生成AIやITの活用により作成などの作業を効率化できます。また、技術的なイノベーションだけでなく、社会的なイノベーション、つまり仕組みやルールの見直しが大変重要です。京都コンソーシアムの事例では、中小企業向けの報告制度と地域金融機関の脱炭素推進の連携が効果を生み出しました。既存の資源や制度を組み合わせだけで大きな変化を作り出すことは可能であり、それを阻む壁を取り除くことが鍵となります。
竹ケ原 先ほど新留さんから、今はトランジション期で、革新的なイノベーションの社会実装はもう少し先だというお話がありました。そのことを前提に考えなければいけない論点について、お考えをお聞かせください。
新留 トランジション期においては、電力需要の増加やCO2排出量の増加が懸念されるなかで、省エネや環境負荷の低いLNG等のエネルギーの活用を徹底し、CO2削減を着実に進めることが重要です。また、将来的なイノベーションに対応できるインフラ整備や、エネルギーの多様化を図り、選択肢を広げておくことが必要だと考えています。
金井 トランジション期は、将来のイノベーションに備える準備期間です。例えば、木質バイオマスをメタネーションの原料として活用するなどの場合、地域資源のサプライチェーンを整備する必要があり、相当な時間がかかります。2030年という目標に向けて、時間軸を意識しながら地域の機能や仕組みを構築しておくことで、イノベーションが起きた際に迅速に対応できる体制を整えることが重要です。また、技術が多様に存在するなかで、どの技術を基盤として活用するかを明確に決めないと、資源の取り合いが発生してしまいます。そのため、国は一定の方向性を示し、「これで進む」という方針を打ち出すことが重要です。さもなければ、各主体が独自に動き、統一性が欠ける可能性があります。
竹ケ原 ガス業界は、既存のインフラを活用できる強みを活かした、「責任ある移行」の方向を打ち出しています。こうした視点は、各地域が、地域特性に応じたトランジション期の戦略を描くうえで参考になります。ロジックモデルを活用して、この取組みの効果を可視化・共有することで、地域ごとの課題や目標が明確になり、より効果的な連携が可能になると考えられます。ありがとうございました。

著者プロフィール

〈講 師〉 金井 司 (かない つかさ)

三井住友信託銀行株式会社 フェロー役員

1983年、大阪大学法学部卒業、住友信託銀行株式会社(現三井住友信託銀行株式会社)入社。ロンドン支店、年金運用部等を経て、2003年より企画部。同社のサステナビリティ部署の立ち上げを主導し、2018年4月よりフェロー役員。この間、企業年金向けのESG(SRI)ファンドの開発や、環境不動産業務の立ち上げ、自然資本評価型環境格付融資や資金使途のないポジティブ・インパクト・ファイナンスの開発、テクノロジー・ベースド・ファイナンスチームの組成等を手掛ける。「21世紀金融行動原則」及び「インパクト志向金融宣言」の初代運営委員長。環境省、内閣府、金融庁、経団連などの各種委員を務める。
主要著書 『CSR経営とSRI』(2004年、金融財政事情研究会)、『戦略的年金経営のすべて』(金融財政事情研究会、2001年)、『サステナブル不動産』、『自然資本入門』(いずれも共著)ほか多数。

〈講 師〉 新留 博子 (にいどめ ひろこ)

大阪ガス株式会社エナジーソリューション事業部環境・地域共創部 副課長

2002年、神戸大学法学部卒業、大阪ガス株式会社入社。
家庭用分野におけるハウスメーカー向け営業や営業企画、広報部を経て、2017年より自治体との共創活動を担う地域共創部門(現職)。
面開発、SDGs未来都市、スマートシティ構想など、自治体政策やまちづくりを通じて、数多くのステークホルダーとの共創活動を経験。
2022年からは、従来活動に加え、脱炭素先行地域を始めとする地域脱炭素分野にも活動の場を広げている。

〈モデレーター〉 竹ケ原 啓介 (たけがはら けいすけ)

政策研究大学院大学 教授

1989年、日本開発銀行(現(株)日本政策投資銀行)入行。フランクフルト首席駐在員、環境・CSR部長、産業調査部長、執行役員産業調査本部副本部長等を経て2024年より現職。中央環境審議会委員、経済産業省「トランジション・ファイナンス環境整備検討委員会」委員、環境省「地域におけるESG 金融促進事業」座長、同「脱炭素先行地域選考委員会」座長、同「地域脱炭素政策の今後の在り方に関する検討会」座長、内閣府「地方創生SDGs・ESG 金融調査・研究会」副座長、農林水産省「バイオマス産業都市選定委員会」委員など公職多数。企業のマテリアリティ分析支援やサステナビリティレポートへの意見書などを多数担当。