地域の現場から
「道産食」と「道産酒」のマリアージュのススメ
2025年4-5月号
このたび、9年ぶり3回目の北海道勤務となりました。前回赴任時に、社宅住まいをしていた際には無かったエアコンが設置されるなど、北海道でも気候変動による平均気温の上昇傾向が続いています。それでも本州に比べれば冷涼で、もはや夏の本州には住めない身体となっておりますが、そんな冷涼な北海道で造られるお酒(以下、道産酒)が、今「アツい」注目を集めています。
近年、健康志向の高まりや嗜好の多様化から国内における酒類消費量が減少する一方、日本酒、ビール等の道産酒醸造場は、2013年度から2022年度にかけて80か所から153か所に急増しています。一つには気候変動による適地の変化が挙げられますが、同時に北海道の豊かな食資源が育むブランドや価値が改めて注目されていることが背景にあると考えております。
ここからは、近年、北海道ならではの気候、土壌、原料等を活かし、地域に根差したストーリー性のある特徴的な道産酒の造り手を独断と偏見でご紹介させていただきます。
まずは日本酒ですが、一つ目は「上川大雪酒造(株)」です。当社は、2016年、製造を休止していた三重県の酒造会社を北海道上川町に移転しました。さらには、国立大学法人北海道国立大学機構帯広畜産大学のキャンパス内や函館でも酒蔵を相次ぎ新設しており、日本酒を活用した地方創生ビジネスのイノベーションを目指した活動を展開しています。二つ目は、1877年、岐阜県中津川市で創業された「三千櫻酒造(株)」です。当社は、蔵の老朽化と温暖化を受け、これまでのやり方では日本酒を造ることができないとの判断に至り、2020年、北海道東川町に移転しました。同町には「地酒」はなく、かねてより「東川町らしい日本酒」を造りたいと切望していたなかで、「公設民営型」での公募に踏み切り、そこへ名乗りをあげたのが当社です。
続いてはワインです。ワイン産地として注目を集める北海道余市ワインを牽引する「ドメーヌ・タカヒコ」の曽我貴彦氏をご紹介します。同氏は余市町で収穫されたピノ・ノワールの素晴らしさと冷涼な環境にワイン産地としての大きな可能性を見出し、2009年に移住。翌年、ドメーヌ・タカヒコを立ち上げています。ドメーヌ・タカヒコのワインは、2023年4月に札幌市で開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合の歓迎レセプションで提供されるなど、世界的に評価を高めています。また、同町にはドメーヌ・タカヒコの元研修生によるワイナリーが相次ぎ創業しており、同町のワイナリーやブドウ農園をめぐる「La Fête des Vignerons à YOICHI」(農園開放祭)には、全国・全世界からワイン愛好家が集い、プラチナチケット化するほどの人気を集めています。
次に、ウイスキーですが、東京にて食品原材料の輸入や酒類の輸出を手掛ける「堅展実業(株)」です。当社は、世界5大ウイスキーの一つとされているスコッチウイスキーの中のアイラモルトのようなウイスキーを造ることを目指し、同地の環境に近い北海道厚岸町に厚岸蒸溜所を創設。2016年よりウイスキーづくりを開始しています。当社のウイスキーは、ワールド・ウイスキー・アワード2025で金賞を受賞するなど、品質・味わいに対する評価は高く、入手困難な状況となっています。
また、ジンについては、1922年、新潟県南魚沼市で創業された八海醸造(株)が手掛ける「(株)ニセコ蒸溜所」が挙げられます。当社は、世界的なスノーリゾート地であるニセコ町がウイスキーづくりのために最適な環境であるとの判断に至り、2021年よりウイスキーの製造を開始しました。ジャパニーズウイスキーは基本的に3年以上の熟成を要するため、まずは長期の熟成が不要な蒸溜酒であるジン「ohoro (オホロ)」を製造・発売されています。なお、ohoroは、発売間もない状況において、World GIN Awards 2024 Classic GIN部門にて世界最高賞を受賞する快挙を達成しています。
最後に、ビールですが、北海道で生まれ育った「サッポロビール(株)」をご紹介します。皆様ご存じの大手ビールメーカーである当社ですが、北海道に感謝の気持ちを込め、北海道限定ビールとして「サッポロ クラシック」を製造・販売しています。サッポロ クラシックは、道産の素材にこだわり、道産ホップと大麦麦芽を一部使用し、副原料を一切使用しない麦芽100%生ビールとして、販売開始から40年を迎えるロングセラー商品となっています。サッポロ クラシックならではの「素材のうまみ」と「爽快な飲み心地」は、北海道の食と気候との相性が抜群で、北海道でしか味わうことができないプレミア感を得られると、道民のみならず、来道客からも好評を博しています。
ここでご紹介した道産酒の造り手はほんの一部であり、北海道では引き続き醸造場の新設が相次いでいます。北海道の食・観光は世界に誇る水準にあると自負していますが、「道産酒」を地域のコンテンツとして位置付け、観光をはじめとする地場産業などとも連携しつつ、ストーリーに沿った体験価値として享受いただくことで、北海道観光のさらなる付加価値向上につなげていただきたいと考えております。是非ご来道いただき、北海道でしか味わうことができない「道産食」と「道産酒」のマリアージュをご堪能いただきたいと思います。
なお、DBJ北海道支店では、2025年3月、『「道産酒」における高付加価値化の方向性~地域コンテンツとしてのお酒が引き出す北海道の価値~』を公表しておりますので、併せてご高覧いただければ幸いです。