World View〈アジア発〉シリーズ「アジアほっつき歩る記」第101回

6年ぶりのハノイは

2023年12-2024年1月号

須賀 努 (すが つとむ)

コラムニスト・アジアンウオッチャー

現在アジアでは、どこの飛行場でも、ほぼコロナ禍前の出入国状態に戻り、以前と同じような旅が普通にできる時代になっている。今回は6年ぶりに訪ねたベトナム、ハノイの様子を書いてみたい。

ハノイの様子

空港は以前と変わっていない。6年前はタクシーを探したが、いまや配車アプリGrabで車を呼ぶ。言語も要らず、料金も事前にわかる、安心安全な雰囲気がよい。以前のベトナムでは、タクシートラブルが何度もあり、そのプレッシャーが軽減されるだけでもあり難い。韓国製Kiaの小型車が来たのは、如何にもベトナムらしい。
空港から市内へ行く路上では、コロナ中は止まっていた道路工事が各所で行われており、ベトナムの経済成長を何となく実感する。だが一方旧市街地に入るとまるで変化のない風景が出てきてホッとする。ホテルも部屋は広くて快適そうだが、さすがベトナム、外の騒音はかなりすごい。
宿を出たところに、おじさんたちが屯しており、皆で茶を飲み、楽しそうに話している。そこから適当に歩いてみたが、そこかしこでお風呂椅子に座り、茶やコーヒーを飲んでいる人々に出会う。昔と変わらない風景が何だか嬉しく、そして懐かしい。ハノイの伝統的路上カフェは健在だった。

一方クーラーが効いた、デザインがおしゃれな、チェーン店のカフェもどんどん増えている。コーヒー一杯の料金は路上カフェの数倍だが、利用者は以前からいる外国人に加えて、ベトナムの若者が中心となっており、その購買力が確実に高まっていることを強く感じさせる光景だ。
変わらないといえば、交通事情。所々に信号はあるものの、道を渡るのは大変だ。横断歩道で待っていても、車が止まってくれることは稀であり、自力で車の間を縫って向こう側へ行かなければならないのは、交通ルールに慣れた日本人には辛いだろう。だが中国で昔鍛えた筆者などは、こんな状況すら懐かしい。ルールに拘らず、自らの感覚を信じて、相手との呼吸を合わせて渡るのは、実は慣れてしまえば意外と爽快である。
ふらふら散歩していると、ホアンキエム湖までやってきた。このあたりの風景もさほど変わっていない。20年前家族旅行で来た時に見たパペットショー(水上人形劇)、今もやっているようだが、料金は何倍になっただろう。観光客が多く歩く道に出ると、そこも昔とあまり変わった様子はない。古い町並みは残り、まるでコロナ禍などなかったかのように見えるが、店の入れ替えなどはかなりあったであろう。正直外国人観光客は思ったほど戻ってきていないようで、商売は厳しい。
翌日港町ハイフォンに行った帰り、バスで高速道路に乗ると1時間ちょっとでハノイ郊外までやってきた。車窓からは、旧市街地とは全く異なる風景が見えた。高層ビルやショッピングモールが並び建つその発展ぶりには驚かされる。旧市街地はもはや開発不可能ということで、郊外に街が延びている。人口が1億人に近づくベトナムでは、人口増加が経済成長に繋がり、そして新しい土地の開発がこれからも進みそうだ。

ハノイ初の都市鉄道に乗る

2021年ハノイ市内で初めて鉄道路線が開業したとのニュースを見た。随分前から各国の支援の下、大規模な工事は行われていたが、ついに中国が10年支援した路線が走りだしたので、乗りに行ってみる。どこの都市でも最初に鉄道が敷かれた時は、その駅まで行く交通手段に苦労する。歩いて行くことにしたが、ハノイ駅から最寄り駅(始発駅)まで約3㎞の道のりをふらふら散歩しながら行く。こんなことは時間に追われるビジネスマンには出来ないだろう。途中に孔子廟がある。今日は特別な日なのだろうか。卒業する幼稚園生?小学生などが記念写真を撮っている。さすがベトナム、子供の勉強には力が入っている。ここの展示を見ると、ベトナムの歴史の一端が分かってくる。
その先には路線の工事現場が出て来る。いくつもの路線が準備されているようだが、開通までにはかなりの時間が掛かっている。30分以上歩いてようやく2A線の始発駅、カトリンまで辿り着く。この路線は2021年11月に開通し、既に1年以上が経過していたが周囲は雑然としており、乗客も多くはなかった。

駅のシステムはどこかの国と同じようであり、機械で切符が買える。初乗りは8000ドンか。高架を走るのも、車両を見ても、近年のバンコクMRTとほぼ変わらない。小学生が社会科見学で乗ってくる。出発すると道路沿いの建物がかなり近づく。この路線は郊外に行くので、二駅で降りてまた歩いて帰る。
現在準備中の数路線が開業すれば、通勤などにも使えるであろうし、渋滞などを含めて一気にハノイの交通事情は改善するはずだが、残念ながらそれが一体いつになるのか、誰にも予想がつかない所が、如何にベトナムだ、と感じてしまった。

ハノイの物価

以前食べて美味しかったブンチャー(焼いた豚肉とライスヌードルを用いたハノイ発祥の料理)屋を探してみると、店がきれいになっていた。しかもお客が押し寄せており、席が見つからない。何とか一席空けてもらい、ようやくブンチャーにありつく。この店、昔は外国人が多かったが、今やベトナム人が主要顧客。美味しく頂き、大満足だが、料金は6年前の1.5倍になっており、ベトナム中間層の成長を感じる。
ホテル代もやはり6年前と比べれば、50%程度は値上がりしているように思える。まあ何を買っても以前より明らかに高いのは日本も同じだろうが、円安も考えればハノイの物価を円換算すると6年前の2倍近くになり、日本の水準に少しずつ近づいてきている。もう以前のようにハノイは安いから、という感じではなくなり、アジアの中流以上の都市になっている。ただ昨今は中国の影響か、不動産市況が伸び悩み、景気に陰りがみられることは付け加えたい。

著者プロフィール

須賀 努 (すが つとむ)

コラムニスト・アジアンウオッチャー

東京外語大中国語科卒。
金融機関で上海留学、台湾2年、香港通算9年、北京同5年の駐在を経験。
現在は中国を中心に東南アジアを広くカバーし、コラムの執筆活動に取り組む。